鵬図商事技術顧問
ウイリアムH.ロビンソン、Ph.D
今年1月の建築物環境衛生維持管理要領改訂に伴い、IPM(総合的有害生物管理)の一層の推進が求められます。IPMは施工現場に生息する昆虫類の調査から始まります。そして、これに最適の機器といえばインセクトライトトラップ(ILT)でしょう。
粘着紙で飛翔性昆虫類を捕獲することができるILTは、昆虫類の調査と生息密度管理に利用できる、IPMに不可欠の道具なのです。ILTの原理は何か、どうしたらもっと有効に使えるかなどについて、今号と次号の2回に渡ってILTの本質を検証します。(本稿は05年5月第276号と277号からの再録です)
昆虫の昼間の優れた視覚は、パートナーを見つけ認識することや、餌のありかや産卵場所卵を見つけ、捕食動物や寄生動物を回避するために重要な役目をしています。昆虫の眼は一般的に大きく、微弱な動きさえも検知できるよう優れた構造をしており、飛行中および休止しているときでも、複雑な形式を識別することができます。夜間に飛来する昆虫はほとんどいませんが、それらの昆虫の眼は暗視できるような構造をしています。ほとんどの昆虫は日中に活発に活動するわけですが、そうした日々の活動には日光のもつ波長や明るさといった特質が関係しています。
フリッカー反応
昆虫の目は、光のすべての波長に等しく敏感とは言えず、一般に紫外線域の光を感知しますが、光線の赤色側の光は感知することができません。昆虫によっては、光源に直接反応しそれに向かって行く昆虫もいます。多くの昆虫が色を識別することができます。また、昆虫によっては偏光された光を検知することができます。蛾、コオロギ、イナゴのような飛翔速度の遅い昆虫の眼は、チカチカと明滅する光への反応が遅く、これは“低フリッカー反応”であると考えられ、UV捕虫機では重要なポイントです。ハエのような飛行速度の速い昆虫の眼は、光の変化に速く反応(“高フリッカー反応”)しますから、UV捕虫機の紫外線ランプを考慮する場合に重要な要素です。
ハエは、一定の速度で飛行することを好み、通常は微風の流れの中を飛ぶことを好みます。ハエは、地上の物体をチラチラと見ながら、飛行速度を調節しています。ハエの眼が感知する素早い光の変化とUVランプの有効性には関係があります。一般的な蛍光灯は光度が60%ぐらいまで落ち、また最大の強度に急増します。蛍光灯はこれを連続的繰り返しているわけですが、その明滅(ピークから60%減まで)は人間の眼では感知できません。
紫外線ランプの場合は蛍光灯とは異なり、光度が最大値の約10%まで落ち、次に、100%急増します。この劇的な明滅の状態は人間の眼では検知することができませんが、ハエはこれを検知しています。紫外線とUVランプの明滅の相乗効果により、ハエやその他の飛行速度の速い昆虫はUV捕虫機に強力に誘引されるのです。
意外に短いランプの寿命 -ランプ交換は年2回
UV捕虫機のランプは3~4ケ月間使用すると、紫外線放射量がかなり低減します。またランプの点滅(ピーク光から90%減まで)回数も同時に、低減してしまうのです。そのようなUVランプは、人間の眼では全く変化ないように見えますが、実際にはハエやその他の虫類の誘引効果が極めて劣ってしまっています。UV捕虫機のランプは1年に2回交換のように、ルーチン化して定期的に行う必要があります。人が気づくようになるずっと以前に、UV捕虫機用ランプとしての機能を失っているのですから、人間の眼でも識別できる状態になってからの交換では遅すぎるのです。
ほとんどの昆虫は、光に対する感度の2つのピークを持っています。そのひとつは、紫外線の青い光(300~400ナノメーター)もう一つは、緑の光(約500ナノメーター)です。ほとんどの昆虫は赤い光を見ることができないか、もしくは誘引されません。ですから夜間にスズメバチの巣の駆除をするときに赤い光を使うのです。
ハエの種類によっては、光の強度を検知することができません。例えば、ショウジョウバエは、識別する対象物が他のものより2~3倍明るくないと検知できません。しかしイエバエは、光の強度の1%未満の差を識別することができるので、天井の照明器具やテーブルライトによってくるのです。
どこが良いのか -UV捕虫機の設置場所
昆虫の紫外線に対する感受性は、昆虫が戸外のような明るいところにいたか、あるいは倉庫のような暗いところにいたかによって異なります。明るい太陽光に曝されていた虫の眼は、それほど敏感でなくなるために、UVランプの紫外線に強く反応することがありません。ですから、UV捕虫機を戸外で使ったり、あるいは大きな窓の近くで使用したりするのは効果的ではないのです。
暗い場所では、昆虫の眼はUVランプの紫外線に非常に敏感になりますから、UV捕虫機の最も有効な設置場所は暗い廊下の隅、大きな窓から離れた場所、日の射さない場所などです。UV捕虫機はランプの光と競合する光源が少ない、夜間の方がより効果があります。
UV捕虫機の有効性は、
第1にUVランプの状態ですが、これは定期的に交換しなければなりません。
第2にハエでも種類によっては紫外線に誘引されませんから、そこにどんな捕獲対象昆虫が生息しているかを調査しておく必要があります。
第3に屋外から飛来した昆虫はすぐには紫外線に誘引されず、UVライトに感受性を持つまでに数時間かかります。
UVランプの定期交換を行う時期としては、理論的に考えて春に行うのが最も効果的です。しかし場合によっては、ハエの個体数が夏季に多くなり8月から9月まで生息することを考えると、初夏に交換を行うのも一つの方法でしょう。春先に取り替えられたランプは、夏の終わりには紫外線による誘引効果が、殆んど無くなっていると考えられるからです。