短期シリーズ連載(全3回)ヒアリの生態について

京都大学 生存圏研究所
講師 Chin-Chen Yang (Scotty) Ph.D.

 南米起源であるヒアリ(学名:Solenopsis invicta)はアメリカに侵入し、現在はその  生息地域を15以上の州に拡大しています。2000年以降オーストラリア、ニュージーランド、台湾、中国でヒアリ発見が報告され、直近では日本でも報告がされています。   港のコンテナヤード外では個体群の生息が確認されていないことから侵攻初期段階であることを示しています。この段階における社会的関与の度合いが侵攻拡大を防ぐうえでとても重要です。例えば、行政の力だけでは調査しきれないような場合、多くの市民が協力することによりヒアリの生息を発見することができます。社会が警戒心と侵攻防止に向けた熱意を維持するためには、正しい情報とヒアリに関する知識を提供することが急務です。
 そこで、ヒアリを見分けるための具体的な特徴をご紹介させていただきます。

形態学的特徴と色、サイズ

 ヒアリは2ミリから6ミリと小さく、一見して節があることや針を目視(写真1の黒矢印)で確認できます。


写真1

 フタフシアリ亜科であるヒアリは、フタフシアリ科の特徴である二つの腹柄節(写真1赤矢印)を胸部と腹部の間にもちます。

 10節からなる触角湾曲部の先は2節のこん棒状部になっています。(写真2)


写真2

 日本に生息する他のアリは職蟻の大きさが均一(monomorphic)であるのに対して、ヒアリ職蟻はサイズに多様性(Size polymorphism: )がみられることも特徴のひとつです。

 ヒアリ職蟻の体色は頭部から胸部にかけては茶色がかった同褐色をしており、腹部はさらに濃い色をしています。しかし、ヒアリ以外のアリにも同系色の体色のアリがおりますので、体色のみでヒアリを見分けるのは難しいといえます。

塚の構造

 ヒアリが生息する地域ではヒアリの塚をよくみかけます。ヒアリの塚の形や大きさは土壌にタイプにより様々です。例えば粘土質の土壌で形成された塚の場合、砂を含む土壌に比べ大きな塚を形成します。

 塚の存在はヒアリを発見する手掛かりではありますが、必ずしも常に有効なヒアリ発見方法ではありません。形成初期の塚は完全に地中に埋没しており、地表からは全くわかりません。成熟したコロニーであっても、暑い時期はほとんど土が盛上ってない平坦な塚を形成します。ヒアリは材木や岩、敷石、造園資材の下に巣を形成することがあり、その場合発見するのは容易ではありません。
 ヒアリの塚の見分かたとして、他の塚を形成するアリの塚と違いヒアリの塚は中央に出入口となり開口部がありません。これは、塚から放射線状に蟻道から出入りするためです。塚中央の開口部から出入りするアリを見つけた場合、それはヒアリではなく日本固有種のアリである可能性が高いといえます。

攻撃行動と毒針

 攻撃性があり毒針で刺すのもヒアリの特徴といえます。ヒアリは塚が荒らされると直ちに数千頭の職蟻が毒針で刺すために相手によじ登ります。職蟻は口器で皮膚を咬み、毒針を攻撃的に刺し毒液を相手に何度も繰り返いし注入します。通常ほとんどのアリは塚を荒らされると逃避行動をとりますが、ヒアリは攻撃行動をとる稀な種です。

 ヒアリに刺されると最初は焼けるような感じ、またはチクチクする感じが30分から1時間ほどします。数時間後、刺された箇所に膿疱が生じ、その後は徐々に痒みが生じ、治るのに1週間から2週間を要します。非常に稀なケースですが、ヒアリに刺され全身性アナフラキシーなどのアレルギー反応が生じることがあります。この点にご注意いただきたいのですが、様々な種類のアリは自衛手段として針と毒液を用いますが、先にご説明したような症状(激しい痒みを伴う膿疱)が生じた場合、ヒアリに刺されたものと思われます。

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