鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾
出典元:月刊HACCP287号より
今号のテーマはハエ類の環境改善による防除
前号で、ハエ類の物理的防除方法と化学的防除方法について説明させて頂きましたので、今号では「環境改善による防除」について説明させて頂きます。環境改善による防除とは、害虫にとって、「侵入しにくい、住みにくい環境」を整備する事です。主に施設の修繕や設備改善を行うので、一度改善すれば、根本的な対策となりやすく、継続的に大きな防除効果が期待できます。しかし、設備改善は、多額のコストが必要になる事が多い為、他の防除手法と比較検討した上で実施しないと、コストパフォーマンスが悪い結果に繋がる恐れもあります。また、本来であれば、防虫に対する知識を持った建設会社、ペストコントロール業者(害虫駆除業者)などに相談し、虫の目から見た構造的欠陥が無いか確認し、予め対策を実施する事が理想です。しかし、既設の施設ではそのような事は出来ませんので、今号では既設でも出来る様々な環境改善の手法を紹介しますので、参考にして頂ければ幸いです。
シャッターは虫から見れば、隙間だらけ
搬出入口にはシャッターが設置されており、何者も侵入できないように思いますが、虫から見れば隙間だらけです。シャッターの開閉はほとんどが水平巻き上げ方式ですが、虫が侵入しやすい隙間が主に3か所あります。(図1)
図1 図2 図3 写真1
① シャッターボックスの隙間(図2)
シャッターボックスはシャッターを巻き上げる為のスペースを確保しているので、どうしても隙間が発生してしまいます。こちらの隙間は20mm以上ある事が多く、ハエ類など飛翔昆虫だけでなく、ネズミ類の侵入箇所になる事も多々あります。
②ガイドレールの隙間(図3)
ガイドレールは、シャッターの端を収納しているスペースになりますが、こちらも僅かな隙間があり、ハエ類など飛翔昆虫から見ると、侵入しやすい場所になります。
③シャッター底面と地面の隙間(写真1)
このケースは意外と多いです。原因は床コンクリートを水平に打設していない。施設老朽化によって、凹凸がある。シャッター取付時に数ミリの隙間を見落とす。などが挙げられます。地面との間に隙間があるので、ゴキブリなど徘徊性昆虫の侵入原因にもなります。
【シャッター隙間を閉塞するブラシ 商品名:バーシャット2】
シャッターの隙間を閉塞するにあたり、シャッターの開閉に支障が出てしまうと、故障の原因にもなり得ます。その為、専用のブラシを用いて閉塞する事をオススメしています。上部用、サイド用、下部用の3種類があるので、前述のシャッターから侵入しやすい3箇所をカバーする事が出来ます。また、金属シャッターだけでなく、シートシャッターにも取り付けが出来ます。
写真:バーシャット2
【シャッター底面の隙間を閉塞するスポンジ 商品名:ゲタ★スポ】
シャッターの底面に、設置するようの緩衝スポンジを取り付けます。ゲタ★スポは手動シャッター専用になりますが、様々なサイズがあり(30㎜×10㎜、50㎜×10㎜、50㎜×28㎜、75㎜×28㎜)取付幅に合わせてカッターで簡単に切断し、長さの調整が出来ます。当社倉庫に取り付けた時は、約10分で作業出来ました。
エアカーテンは侵入予防に役立つ
開口部にエアカーテンを設置すると、風力で飛翔昆虫の侵入を抑制する事が出来ます。ハエ類など飛翔昆虫が施設内部に侵入しようと飛来しても、エアカーテンの風力によって、吹き飛ばされてしまうという事です。エアカーテンによる昆虫類の侵入抑制効果について(財)日本環境衛生センターの小泉氏が以下のように述べています。
3種のエアカーテンに対する昆虫類の侵入抑制効果を実地試験によって評価したところ、飛翔性昆虫では、昼間、夜間ともに高い侵入効果が得られたが、昼間はニクバエ科やクロバエ科のハエ類、夜間はチョウ目やコウチュウ目など大型の一部の昆虫で、侵入抑制効果が低下する傾向が見られた。(1
また、対象種、エアカーテンの気流を作る方式によって、侵入抑制効果が異なります。
飛翔昆虫類に対して、横流対向式で97.8%、横流循環式で99.1%、吹き降ろし式で91.7%でいずれも90%以上の侵入抑制率が得られた。特に捕獲数が多かったクロコバエ科は全ての試験区でほぼ100%の侵入抑制率が得られた。一方、ニクバエ科は、吹き降ろし式の対象区において捕獲されなかったため比較評価出来なかったが、横流対向式で60.0%、横流循環式で50.0%、クロバエ科は、横流対向式で81.3%、横流循環式で22.2%、吹き降ろし式で82.1%にとどまり、ニクバエ科やクロバエ科などの飛翔力の強い大型のハエ類(体長1㎝程度)では、侵入抑制率がクロコバエ科などのコバエ類(体長2~3mm程度)に比べて低かった。(1
【環境的防除と化学的防除の合わせ技 商品名:防虫エアカーテン(縦流)ACF0909 】
侵入抑制効果のあるエアカーテンに加え、忌避剤(殺虫成分)を開口部に行き渡らせる事で更に侵入予防効果を向上させたエアカーテンも販売されています。エアカーテンよりも外側に忌避剤が蒸散するよう設計されており、エアカーテン中心より半径3mに拡散し、害虫が寄り付きにくくしています。また、忌避剤の有効成分は人体に安全性の高いピレスロイド系殺虫剤を使用しています。
左:防虫エアカーテン 右:忌避エリアイメージ
ハエ類は「陰圧」によって施設内に引き込まれる
施設の吸気量と排気量差による「気圧差」も侵入の原因となり得ます。施設内の排気量が吸気量より多い事を「陰圧(負圧)※図4」、施設内の排気量が吸気量より少ない事を「陽圧(正圧)※図5」施設内の排気量と吸気量が同じ事を「等圧」と呼びます。陰圧状態では外の空気が施設内に吸い込まれてしまい、その時にハエ類も一緒に吸い込まれ、施設内に侵入させやすくなってしまいます。この差圧によって、ハエ類など飛翔性昆虫の侵入状況は変わってきます。
元株式会社竹中工務店の稲岡氏の実験結果(図6)によると、以下の結果となりました。
内外等圧に対して、内部陽圧時の侵入は10%減、陰圧時は46%増加という結果になりました。
陽圧は若干の防虫効果を示し、陰圧は明らかに昆虫の侵入を増加させることがわかります。(2
このように差圧をコントロールする設備対策はハエ類などの侵入対策として根本的な改善となります。しかし、既設の施設を全て陽圧にするには、莫大なコストが必要になってしまいます。その為、製造エリアなど絶対に異物混入を起こしたくない場所をブース化した上で陽圧化(吸気)設備を導入するといった、重要エリアを局所的に陽圧化する事がオススメです。
図4 図5 図6(2
【自分達で簡易的に陰圧・陽圧を調べるツール:スモークテスター】
自分たちの施設が陰圧か陽圧か調べたい時は「スモークテスター」を用いて調べます。スモークテスターは塩化第二スズと空気中の水蒸気が反応し発煙します。その白煙を用いて気体の流れを確認する事が出来ます。
間仕切りによる侵入予防
外部からの侵入に対し、物理的に侵入させにくい環境を作る事も有効です。それは、前室、ドア、ビニールカーテン、高速シャッターなどの間仕切りを設ける事です。どのような間仕切りが飛翔性昆虫の侵入予防に適しているのか、東洋産業株式会社の坂下氏が以下のように述べています。
4種類の間仕切りのうち、最も通過率が低かったのは前室であった(表1)。前室で通過率が低くなった要因として、飛翔性昆虫が前室を通過するには2つのドアを通過しなければならない事が考えられる。前室の次に通過率が低くなったのがドアであることを考えると、間仕切りとして最も効果的なのはドアであると示唆される。もちろん、ドアの開閉が正確に行われているのが絶対条件であることは言うまでもない。今回の調査中、最も通過率が高くなった、つまり間仕切りの効果が低くなったのは高速シャッターであった(表1)。高速シャッターは、一度使用すると解放されるスペースが広くなるため、その分飛翔性昆虫が通過しやすくなると考えられる。本調査から、間仕切りの設置が飛翔性昆虫の侵入防止に効果的であることが明確になった。間仕切りの中でも前室およびドアについては、侵入防止効果はあるものの、新規に設置する事は難しい。一方、比較的設置が容易なビニールカーテンでも、飛翔性昆虫の侵入を約70%阻止できる(表1)。(3
表1
床排水トラップ、流し台のワントラップに一工夫で、侵入予防
コバエ類など飛翔昆虫の発生源となる排水管や流し台のワントラップにも一工夫できます。
コバエ類など飛翔昆虫が出てこれないよう物理的に封鎖してしまえばいいのです。使用していない場所であれば、対応するサイズのフタを使用し、封鎖します。日々使用している床排水トラップ(図7)、流し台のワントラップ(図8)には、水を流していない時のみ、自己閉鎖膜が閉じるタイプのトラップを設置しましょう。逆止弁タイプのトラップは住宅設備メーカーより販売されています。
※排水効率は低下します。多量の水を頻繁に流す現場では、排水しきれず水が溢れる原因となり得ますので、状況に合わせて採用をご検討下さい。
図7床排水トラップ用 図8流し台などに用いるワントラップ用
参考文献
1)小泉智子、 武藤敦彦、 橋本知幸、 佐久間玲良、 安藤洋志、 種倉績(2008).
エアーカーテンによる昆虫類の侵入抑制効果,ペストロジー,23,39-45.
2)稲岡徹(2014).外部から侵入する害虫対策(建物内部の空気圧の調節),
PMPNEWS,328,https://www.hohto.co.jp/pmpnews/pmp328_1/ .
3) 坂下琢治、高橋宏英、羽原政明(1999). 間仕切り条件による飛翔性昆虫の通過率の比較,
ペストロジー学会誌,14,20-21.