鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾
出典元:月刊HACCP289号より
ゴキブリ1匹見たら100匹いるという噂は本当?
ゴキブリは1匹見たら100匹いるという都市伝説のような話を聞いた事ありませんか?
クロゴキブリは屋外に生息する事が多いので100匹もいません。しかし、チャバネゴキブリの場合、屋内で繁殖し、雌雄1匹ずつから1年後には10,000匹以上に増えていてもおかしくありません。ゴキブリは食品を扱う施設では必ずと言っていいほど出没し、その繁殖力から、駆除に苦戦する事も少なくありません。今号ではゴキブリ類の生態と自分たちで出来る繁殖予防の方法についてご説明させて頂きます。調査方法、物理的防除方法、化学的防除方法などは次号以降にご説明させて頂きます。
チャバネゴキブリの繁殖能力1)
●繁殖条件
室温28度、卵期間20日、幼虫期間1~2か月、雌雄比1:1、成虫の生存期間が3~5か月、1世代はほぼ半年生存する。
●繁殖能力の計算
1対の成虫が4か月間生存し、その間卵鞘を5回産み、1卵鞘に40卵あるとして、
その世代の80%が成虫まで生存した場合、1世代目で160頭の成虫が生じる。
雌雄比1:1の為、160頭のうち、80頭が雌成虫となる。80頭の雌が上記繁殖を行う為、
2世代目で12,800頭に増える事になる。(80×160=12,800頭)
ゴキブリのもたらす害
●人々に強い嫌悪や不快感をもたらす。
その姿、行動習性、悪臭、不潔さなどが、人々に強い嫌悪や不快感をもたらす。
●病原菌を運搬する可能性がある
ゴキブリは餌を探す為に様々な場所を徘徊し、体に生ごみなどが付いたまま移動してしまう事から、病原菌(サルモネラ菌、大腸菌、赤痢菌)やアレルギー物質(小麦粉など)などを運搬してしまう可能性があります。
●異物混入時の風評被害
ゴキブリに対するイメージは「汚い、気持ち悪い、見たくもない、嫌われた存在」だと思います。
もし、ゴキブリが混入してしまった場合、ゴキブリのイメージの悪さもあり、その企業の衛生管理体制を疑われてしまう、二度とその会社の商品を買わないという感情になってもおかしくありません。
●喘息のアレルゲンとなる
ゴキブリの体液、糞、死骸などが喘息のアレルゲンとなる。
●電子機器の漏電、接触不良を引き起こす
家電製品、OA機器、電気通信機器などへ潜入し、漏電、接触不良などによる停電、火災事故、故障の原因になる。
消費者センターに寄せられたゴキブリ混入の割合2)
独立行政法人国民生活センターの発表資料「食品の異物混入に関する相談の概要 平成27年1月26日」によると、食品の異物混入に関する相談1,852件中、虫の混入は345件(18.5%)、ゴキブリは49件(分類虫の中では、14.2%)も混入しています。ゴキブリの混入はあり得ない事ではありません。
表1.異物の内容(2014年度受付分、複数回答)より抜粋
異物の内容(注19) | 食品の異物混入 n=1,852 | |||
食料品 n=1,656 | 外食・食事宅配 n=196 | |||
虫など (小計 345 件) |
ゴキブリ、ゴキブリの足など | 49(2.6) | 318(19.2) | 27(13.8) |
ハエ、ハエの幼虫など | 31(1.7) | |||
ゴキブリやハエ以外の虫 | 265(14.3) |
消費者はゴキブリを見たらどう思うか?
フードサービス店に来店されるお客様の心理について10代~50代の男女100人に実施したアンケート調査を当社が調査会社に依頼した時の結果を下記に記載させて頂きます。
絶対に混入させない為に、普段から対策する事が重要
ゴキブリの混入は食品を扱う施設ならばどこでもあり得る事です。最近はSNS(TwitterやFace Book)が普及し、消費者の誰もが、情報を発信する事が出来ます。以前、ゴキブリの混入がSNSで拡散され、重大な風評被害に繋がってしまった事例も発生しました。しかし、ゴキブリはいつの間にか施設内に侵入し、繁殖をしてしまいます。そして、ゴキブリは驚異的な繁殖力を持っています。その為、油断するといつの間に大量発生してしまいます。ゴキブリを見かけるようになってから駆除するのでは、遅すぎるのです。ゴキブリを居なくする為には、害虫駆除業者に依頼するだけでなく、自分達でも対策を実施する必要があります。まずは敵を知るという事で、ゴキブリの生態をご紹介させて頂きます。
日本のゴキブリ代表種
ゴキブリは約3億8000万年以上前に地球上に現れ、世界に約4,000種が分布しています。日本には52種 7亜種が記録されていますが、食品を扱い施設や一般家庭でよく見かける代表種はチャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、ヤマトゴキブリの4種です。
●チャバネゴキブリ
飲食店などで最もよく見かけるゴキブリ。アフリカ原産で比較的低温に弱い。小型種で容器や段ボール箱などに入り込み、侵入してくる。
体長:約15~20mm、成虫の寿命:約95~142日
●クロゴキブリ
一般家庭で最もよく見かけるゴキブリ。中国南部原産(諸説有り)半野外的な環境で生息し、繁殖する。餌を求め一般家庭や施設に侵入してくる。冬季は屋外で休眠越冬する。
体長:約30~38mm、成虫の寿命:154~197日
●ヤマトゴキブリ
クロゴキブリに似ているが、少し小型で体表にツヤが無い。
雄は翅が短く、腹部後半部が露出している。原産地は日本。
半野外的な環境で生息し、繁殖する。餌を求め一般家庭や施設に侵入してくる。冬季は屋外で休眠越冬する。
体長:約18~30mm、成虫の寿命:124~179日
●ワモンゴキブリ
前胸背板に黄褐色の輪のような紋がある事からワモンゴキブリと呼ばれる。アフリカ原産で低温に比較的弱く、ビルや地下街、下水道などに多く生息する。
体長:約35~45mm、成虫の寿命:約200~588日
表4.ゴキブリ4種の産卵数、発育期間、脱皮回数、成虫生存期間 3) | ||||
項目 | チャバネゴキブリ | クロゴキブリ | ヤマトゴキブリ | ワモンゴキブリ |
卵鞘内の卵数(個) | 18~50 | 22~28 | 12~19 | 13~18 |
メスの産卵回数(一生) | 5~6 | 20~30 | 7~41 | 10~84 |
卵期間(日) | 20 | 31~47 | 27~42 | 32~41 |
幼虫期間(日) | 33~70 | 84~112 | 98~413 | 90~200 |
幼虫脱皮回数 | 5~6 | 8~11 | 9 | 8~12 |
成虫生存期間(日) | 95~142 | 154~197 | 124~179 | 200~588 |
ゴキブリの生態・習性
ゴキブリをいなくさせる為には、ゴキブリの生態・習性を知り、繁殖しづらい環境を作る事が重要です。ゴキブリが繁殖する為には、4つの条件が揃っている必要があり、その条件をどれか一つでも満たす事が出来なければ繁殖する事はできません。
ゴキブリが繁殖する為に必要な4条件
- 餌
産まれたばかりの若齢幼虫から成虫まで同じ餌を食べ、人間のあらゆる食べ物、調理くず、
壁紙、本の表装から汚物まで食べる。また、巣内の脱皮殻、糞、死骸なども食べる。
食事量と食事の頻度
雄成虫 :1日約3.5㎎の餌を毎日食べる。
若齢幼虫 :1日約1.5㎎の餌を毎日食べる。
卵鞘を保持した雌成虫 :3~5日に1回餌を食べる(約3.5㎎) - 水
ゴキブリの繁殖には水と餌が特に重要な要素を占めており、神谷(2010)4)らが実施した水、餌、双方無しの条件下での各種ゴキブリの飢えや渇きに対する試験結果は以下の通りとなった。
チャバネゴキブリ:若齢幼虫、成虫ともに3週間以内に全滅した。
●クロゴキブリ :若齢幼虫、成虫ともに4週間以内に全滅した。
●ワモンゴキブリ :若齢幼虫は3週間以内、成虫は10週間以内に全滅した。 - 温度
ゴキブリが繁殖する為の適温は25度~30度です。特に低温に比較的弱いアフリカ原産の
チャバネゴキブリやワモンゴキブリは20度以上無いと活動・繁殖出来ません。 - 隠れ家
ゴキブリは厨房施設、調理場、水回りなどに潜伏します。そういった場所は繁殖に必要な条件(餌、水、温度)が揃っており、人の気配が直接届かない物陰や隙間などに集団で住み着きます。また、5㎜程度の隙間があれば、侵入できてしまいます。図1.コールドテーブルでゴキブリが好む場所
ゴキブリの成長サイクル
ゴキブリは蛹のステージを経ない不完全変態の生物(脱皮を繰り返し、成長する)
ゴキブリは夜行性の生物
屋内生息のゴキブリや夜間活動性で、日没後に活動を始めます。活動は前半夜が盛んで、中盤はやや落ち着き、夜明け前頃も活発に活動しますが、明け方には潜伏場所へ戻ります。
ゴキブリの巣
ゴキブリは集団で潜伏する習性があり、その場所を「ローチスポット」と呼んでいます。
前述の隠れ家になる場所に潜伏し、集合フェロモンの作用によって集まってきます。
●チャバネゴキブリの巣内潜伏時間
オス成虫 | 1日の25%を巣内で過ごす。 |
メス成虫 | 1日の90%を巣内で過ごす。 |
幼虫 | 1日の75%を巣内で過ごす。 |
メス成虫(卵鞘保持) | 1日の殆どを巣内で過ごす。 |
ゴキブリの行動範囲
ゴキブリはオス成虫、メス成虫、若齢幼虫などで行動範囲が変わり、行動範囲を理解する事で、様々な事を知る事が出来ます。
●チャバネゴキブリ オス成虫・中老幼虫
餌と水を求め、巣から5m程度までの範囲を徘徊する。
●チャバネゴキブリ メス成虫
餌と水を求め、巣から5m程度までの範囲を徘徊する。
●チャバネゴキブリ メス成虫(卵鞘を保持)
卵鞘を保持したメス成虫は巣から殆ど出る事が無い。
稀に巣から出てきた場合も巣から1m以内の範囲を徘徊する。
●チャバネゴキブリ 若齢幼虫
産まれた場所から殆ど離れない。
ゴキブリの生態から考える、自分達に出来るゴキブリ対策
上記ゴキブリの生態・習性から、ゴキブリが繁殖しづらい環境を考えてみましょう。
ゴキブリが繁殖する為に必要な4条件「餌、水、温度、隠れ家」をいかに減らすかが重要です。
- 餌 ◎対策可能
ゴキブリは雑食でオス成虫の場合でも1日約5㎎しか餌を食べません。ゴミ箱が開けっ放しになっていたり、床に落ちている野菜の切りカスなど食品残渣はゴキブリの良い餌となります。営業終了後は、ゴミ箱の蓋を必ず閉める。床に落ちている食品残渣の清掃が重要となります。 - 水 〇対策可能
ゴキブリは私たちから見てごく少量の餌、水を摂取する事で生存する事が出来ます。
流し台に残っている「水たまり」はゴキブリから見たら良い水飲み場です。営業終了後は、
流し台の水たまりをふき取りましょう。 - 温度 ×対策不可
火気を使用する厨房は気温が上がりやすく、20度以下にすることは容易ではありません。また、コールドテーブルなどモーターを使用している厨房什器はモーターから熱が発生している為、対策は難しいと言えます。 - 隠れ家 △対策可能
厨房什器の下は、掃除がしづらくゴミが溜まりやすい場所となっています。熊手や専用の清掃用具(ゴミ掻き出し棒)を用いて、什器下のゴミを取り除きましょう。また、侵入しやすい隙間をシーリング材などで充填し、侵入出来なくする事も効果的です。
引用・参考文献
1)緒方一喜、住環境の害虫獣対策、第5版、一般財団法人日本環境衛生センター、2016、P44
2)独立行政法人国民生活センター、食品の異物混入に関する相談の概要 、2016、P4
3)緒方一喜、住環境の害虫獣対策、第5版、一般財団法人日本環境衛生センター、2016、P43
4)神谷桜、家住性ならびに野外性ゴキブリ幼虫の飢えや渇きに対する耐性の違い、2010、ペストロジー25