ペストコントロールの基礎知識と知って得する技術ノウハウ・情報 第16回

鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾

出典元:月刊HACCP296号より

新型コロナウイルス感染症の流行

2020年1月より明らかとなった中国武漢市をはじめとする新型コロナウイルス感染症は、世界中に流行し、日本でも感染者が1,175例の流行となってしまいました。(3月24日公表)政府は様々な対策に取り組み、感染者の爆発的増加を抑える努力を行っていますが、終息の見通しは立っていません。PCO(害虫駆除業者)は食中毒発生後の殺菌消毒を施設より依頼される事も多く、月刊HACCPでも何回かご紹介させて頂いた害虫駆除の業界団体である「公益社団法人 日本ペストコントロール協会」は、新型コロナウイルス関連の消毒業務を行政の依頼により実施しています。今号では、新型コロナウイルス感染症に対する施設消毒の方法をご説明させて頂きます。

新型コロナウイルスについて

コロナウイルスは、6種類が今まで確認されており、風邪症状を引き起こすコロナウイルス4種、SARS、MERSなど重症化傾向のある疾患の原因ウイルスが含まれています。今回の新型コロナウイルスは、人に感染すると発熱や咳などの呼吸器感染症を起こすウイルスです。2019年12月に中国湖北省武漢市での発生が確認され、2020年1月にウイルスが発見されました。ウイルスの正式名称はCOVID-19となり、日本の感染症法では、ジフテリア、結核などと同じ危険性があるとされる「2類感染症」に指定されました。2類感染症は国民の生命及び健康に重大な影響を与える物と考えられており、対人では入院(都道府県知事が必要と認める時)、対物では消毒等の措置を行う事とされています。新型コロナウイルス(COVID-19)の特徴を下記に記載させて頂きます。 1)

ウイルス名 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
感染症法上の分類 2類感染症
症状 発熱や呼吸器症状、全身倦怠感等の感冒様症状が1週間前後持続することが多い
潜伏期間 1〜14日(5日間が最も多い)
ウイルスの形 直径約100nmの球形、脂質二重膜のエンベロープを形成している
二次感染 ヒトからヒトへの感染有り
  • ● ウイルスの生存期間 2)
    アメリカ国立アレルギー感染症研究所のNeeltje van Doremalen氏がThe New England Journal of Medicineに投稿した論文によると、COVID-19のウイルスは空気中であれば3時間、プラスチックなどの表面上では約3日間生存するそうです。
  • ● 感染経路 3)
    ①飛沫感染
    感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つば など)と一緒にウイルスが放出され、
    他者がそのウイルスを口や鼻から吸い込んで感染します。
    ※主な感染場所:学校や劇場、満員電車などの人が多く集まる場所
    ②接触感染
    感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りの物に触れるとウイルスが
    付きます。他者がその物を触るとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触って
    粘膜から感染します。
    ※主な感染場所:電車やバスのつり革、ドアノブ、スイッチなど
  • ● 空気感染するのか?3)
    厚生労働省の見解では、空気感染は起きていないと考えられています。しかし、閉鎖空間において近距離で多くの人と会話する等の一定の環境下であれば、咳やくしゃみ等がなくても感染を拡大させるリスクがあります。
  • ● ペットから感染するのか?4)
    香港などでペットから新型コロナウイルスが検出されたと報道がありましたが、「公益社団法人東京都獣医師会」によると、現時点において問題とならないと判断しています。その理由は①犬の鼻と口の粘膜にたまたま付着した新型コロナウイルスを検出してしまった可能性があり、犬の体内で本ウイルスが増殖したかどうかは確定していません。②もしペットに新型コロナウイルスが感染するとしても、コウモリなどの野生動物との接触がほぼないとされる日本のペット飼育環境においてペットへの新型コロナウイルスの感染があるとしても、飼主からペットへ感染する経路しか考えられず、その可能性は非常に低いと考えられます。

新型コロナウイルスの予防方法

新型コロナウイルスの予防には従来のインフルエンザ等の感染症と同様に手洗い、消毒、咳エチケットの徹底をしましょう。

  • ① 手洗い
    手に付着したウイルスを洗い流す手洗いは効果的な予防法です。流水と石鹸による手洗いを頻繁に行いましょう
  • ② 消毒
    電車やバスのつり革、ドアノブ、スイッチなど感染者が手で触れた箇所にはウイルスが付着している可能性があるので、アルコールで消毒を行いましょう
  • ③ 咳エチケットの徹底
    感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つば など)と一緒にウイルスが放出されますので、
    マスクを着用する事でウイルスを出さないように、そして吸い込まないようにしましょう

新型コロナウイルスの消毒方法 5)

新型コロナウイルスの消毒は消毒薬なら何でもいいかというと、そうではありません。消毒薬の有効成分によって、殺菌スペクトル(どの種類の菌まで対応か)が異なりますので、必ず有効成分を確認し、新型コロナウイルスに有効な消毒薬を用いましょう。代表的な有効成分(商品例)と殺菌スペクトルを一覧にすると下記のようになります。

  • ● 新型コロナウイルスの消毒薬
    厚生労働省が発行している感染症法に基づく消毒・滅菌の手引きによると、新型コロナウイルスの消毒はエボラ出血熱と同じ消毒方法を用います。
    ① 80℃以上の熱湯に10 分間浸漬
    ② 次亜塩素酸ナトリウム0.05〜0.5%(500〜5,000 ppm)で清拭または30分間浸漬
    ③ アルコール
    消毒用エタノール(70v/v%イソプロパノール)で清拭または30分間浸漬する
    ※ 清拭とは・・・不織布等のクロスに消毒液を含浸させ、拭き掃除を行う事
    ④ 2〜3.5%グルタラールに30 分間浸漬
  • ● COVID-19にアルコールが有効な理由
    COVID-19はエンベロープを持ったウイルスです。エンベロープはウイルスの核を守る保護膜のような役割をしています。エンベロープは大部分が脂質からなるため、アルコールよって破壊する事ができ、エンベロープを破壊されたウイルスは速やかに不活性化します。
  • ● エタノール、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウムの殺菌消毒効果(6
    ドイツのグライフスヴァルト大学G. Kampf博士がJournal of Hospital Infection誌に投稿した論文によると、70%エタノール、0.5%過酸化水素または0.1%次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌消毒を行えば新型コロナウイルスは1分以内に不活性化できるとの事です。

新型コロナウイルスの消毒方法7)

上記消毒薬を用いた具体的な消毒手順を下記に記載させて頂きます。但し、ウイルス陽性エリアの消毒は、専門知識を有し、防護装備を着用した者が実施する事が望ましいです。
自分達で消毒作業を実施する際は、作業者は必ずマスク、ゴム手袋、保護メガネを着用し、作業時は窓やドア開放、換気扇作動など室内換気を行いましょう。

消毒方法①清拭(せいしき)

消毒剤 70%~80%のエタノール、次亜塩素酸ナトリウム0.05〜0.5%(500〜5,000 ppm)
清拭する場所 生活している中で手が触れる場所
ドアノブ、照明、エアコン、家電のリモコンやスイッチ、引き出しの取っ手、パソコンキーボード、筆記具、窓、便器フタ、便座など
作業手順
  • ①    上記エタノールを使い捨て紙ウエス(キッチンペーパーでも代用可)等に充分染み込ませる。
  • ②    人の手が届く範囲を丁寧に拭き取る。
  • ③    机の上など広い場所は紙ウエスを一筆書きの要領でゆっくり動かして拭取る。
  • ④    拭き終わったら紙ウエスをゴミ袋に入れましょう。
  • ⑤    全ての作業が終了したら、ゴミ袋に手袋やマスクなどを入れ、密封した上で処分しましょう。
注意点
  • ・エタノールは引火性が強いので火気に十分注意し、狭い場所で一度に長時間の作業は避けましょう。
  • ・エタノールの殺菌効果は70%~80%が最も効果的です。エタノールの濃度によって、適宜水で希釈し濃度を調整しましょう。
  • ・次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合、漂白作用により清拭場所の変色や腐食が発生します。カーテンなどの布製品は避けましょう。また、ドアノブなど金属部を清拭した時は、5分後に水雑巾でもう1回拭取りましょう。
  • ・広い範囲を1枚の紙ウエスで作業すると菌を他の場所に拡散させてしまう原因になります。1箇所1枚としましょう。

 

消毒方法②噴霧(ふんむ)

消毒剤 70%~80%のエタノール、次亜塩素酸ナトリウム0.05〜0.5%(500〜5,000 ppm)
散布器具 園芸用噴霧器や霧吹きなど
清拭する場所 畳、床、絨毯、カーテン、ベッドマット、浴槽、浴室壁、便器内
作業手順
  • ①    消毒剤を散布機に入れる
  • ②    人の手が届く範囲や人の歩く床面に向け、しっとりと湿る程度吹き付ける。
注意点
  • ・エタノールは引火性が強いので火気に十分注意し、狭い場所で一度に長時間の作業は避けましょう。
  • ・噴霧時に消毒剤を吸い込まないように慎重に行いましょう。
  • ・次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合、漂白作用により清拭場所の変色や腐食が発生します。カーテンなどの布製品は避けましょう。また、ドアノブなど金属部を清拭した時は、5分後に水雑巾でもう1回拭取りましょう。

消毒方法③洗濯

衣類、リネン類、カーテン等は通常の洗剤に「次亜塩素酸ナトリウム」を適量加えて洗濯・乾燥しましょう。「次亜塩素酸ナトリウム」の使用量はボトルに記載されている用法用量の通りに行いましょう。

消毒方法④浸漬(しんせき)

食器、調理器具等は「次亜塩素酸ナトリウム」を0.05〜0.5%(500〜5,000 ppm)に薄めたものを洗面器や流し台シンクに溜め、その中に 5 分以上沈めた後に取り出し、すすぎ後、食器用洗剤で洗浄・乾燥しましょう。

写真左:清拭         写真中:噴霧        写真右:浸漬

引用・参考文献

1)国立感染症研究所,コロナウイルスとは, https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html
2)Neeltje van Doremalen, Aerosol and surface stability of HCoV-19 (SARS-CoV-2) compared to SARS-CoV-1, The New England Journal of Medicine, https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.09.20033217v2.article-info
3)厚生労働省,新型コロナウイルスに関するQ&A, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
4)東京都獣医師会, 飼い主の皆さまへ【香港当局による、ペットの犬が新型コロナウイルス感染症に感染したとの報道について】, https://www.tvma.or.jp/public/2020/03/post-71.html
5)厚生労働省,感染症法に基づく消毒・滅菌の手引きについて, https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000164701.pdf
6)G. Kampf, Persistence of coronaviruses on inanimate surfaces and their inactivation with biocidal agents, Journal of Hospital Infection 104 (2020) 246-251.
7)公益社団法人日本ペストコントロール協会, 「新型コロナウイルス対策 自分で行う消毒マニュアル」https://www.pestcontrol.or.jp/news/tabid/101/Default.aspx?itemid=119&dispmid=551

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