英豪米各国のトコジラミの現状が語られたのでご参考までに記録しておこう。
1.英国事情:サイモン・フォレスター、BPCA(英国ペストコントロール協会)
「ハーィ、皆さんお招きいただきありがとう。英語でしゃべってるんだけど、判ります?」ロンドンは小さな街なのだが、毎年2600万人もの観光客が世界中から訪れる観光都市だ。
2012年はロンドンオリンピックの年、イギリス各国のトコジラミ施工数を比較したグラフを見せながら、イングランドでは14171件、スコットランドは439件、ウエールズは237件で、北アイルランドでも67件の発生があったという。
防除施工はPCOまたは地方自治体の吏員が担当する。英国ではトコジラミ・ビジネスは金になるという“明るさ”の反面“暗い汚い”と考えられていなくも無い。「殺虫剤を使わない防除法としてフリージング(凍結)法と加熱法も普及してます」。殺虫剤を用いるときはピレスロイド、カーバメート、IGRおよび珪藻土が選ばれるという。
トコジラミ防除に際しては一般人の教育が重要なので、ロンドンでは市の吏員や一般家庭向け、ならびに医家向けなど、それぞれに向けたリーフレットを作成配布している。
2.オーストラリア事情:グレッグ・ミルズ、ALLPEST
プレゼンが始まる前の暗い画面に音声だけの“語り”が入るなど、パワーポイントの使い方が上手な、オール・ペスト社のスミスさん。まずは同社の紹介から話し始める。200人の従業員に車が140台とかなりの規模。同社の売りは技術トレーニング施設に並んで、テレビやインターネット使い放題のレクリエーション室を備えていること。
オーストラリアのトコジラミ防除マニュアル第4改訂版が紹介された。2005年に作成され、06年発行。その後、改定が加えられ、現在第4版が出た。この冊子は無料で一般に配布され、世界中のトコジラミ防除情報を世間に周知させることとなった。
ある低所得の独身女性世帯では、中古家具を購入してから被害が起き始めた。このように所得が低いためPCOに相談などできず、被害が相当ひどくなるまで放って置かれるケースが多い。中古家具は購入時に被害を受けていないか十分に調べる必要がある。もし被害が見つかった際は、汚染されたベッドなどに、スプレー・ペンキで「危険!トコジラミあり」と表示してから、処理業者に渡すことになっている。また、低所得世帯の施工費用は地方自治体がそのうち幾分かを補助する制度がある。
ついで、レンガ造りの10階建てホテルの被害例を述べた。結論から言えば、ホテルの場合は薬剤を使いやすいものの、どこへ移動してしまっているかを知ることの方が大切という。一般に薬剤抵抗性を発達させた系統が多く見られるのがホテルのケースだが、このようなときには珪藻土を用いて良い結果を得ている。
(欧米では匍匐性昆虫駆除にしばしば珪藻土を使う。その組成はわが国の薬局方規格のタルクやホワイトカーボンなどとほとんど同じなので、防除用医薬部外品のピレスロイド粉剤を、トコジラミが潜む隙間などに、ブロワーで吹き込む方法も効果的と考えられる)
3.ニューヨーク市:アンドリュウ・クライン、Assured Environments
まずはエコノミスト誌のトコジラミ特集号で紹介された同社記事のご披露。同社では営業施設(コマーシャル)と一般家庭(レジデンス)の双方共に顧客増大中という。NYではほぼ10年前から被害が目立ち始め、04~05年に爆発的に増大する。2010年には映画館や衣料品店まで処理した経験がある。PCOのセールスにとって売りやすい(営業が掛けやすい)コミッションの稼げる施工に違いないが、長期にわたってかかわることが求められる市場だ。
NYポスト紙に”A nose for business”との記事が載ったことがあるが、同社は探索犬(嗅臭犬)を使っている。記事によれば映画館が汚染源との指摘もあるが、このような報道はPCOにとって痛し痒しと言うところ。