防蟻剤における有効成分の特性と位置付けについて

鵬図商事株式会社 大阪事務所 奥村 敏夫

 近年の住宅産業はめまぐるしく激変しており数年前まで100万戸を超えていた新設着工件数はいまや70万戸を切るまでに減少している(国土交通省 住宅着工統計より)。(グラフ1)

 その背景には日本の少子高齢化と景気の悪化はもとより2006年に制定された「住生活基本法」があり“国が住宅の長寿命化と中古市場の活性化を促進する”という住宅政策が打ち出されたことが大きく影響している。その後も2008年には住宅着工時の確認申請が厳格化し、2009年には「瑕疵担保履行法」や「長期優良住宅認定制度」が作られそれを助長している。これらのいわゆる200年住宅構想により、戸建て住宅においては差別化を図るための建築工法が多様化し、より一層複雑な構造になっている。そうなると住宅本体に必要以上のコストがかかるため防蟻処理や防虫対策といった経年によって発生する事象は後回しになるか無視されることになり真っ先にコストカットの標的となる。防蟻処理においては瑕疵保証期間に合わせた10年間の保証書を発行して“防蟻処理済”とする蟻害を軽視したリスクの高い防蟻対策が蔓延する結果となっている。(資料1)
 社団法人 日本しろあり対策協会(以下、白対協)では、シロアリ防除のために「登録施工業者会員制度」、「防除薬剤等認定制度」、「標準仕様書」、「安全管理基準」、「しろあり防除施工士制度」ならびに「蟻害・腐朽検査員制度」を定め、消費者から信頼される防除施工を行うよう、関係官庁の協力を得てシロアリ防除業界の指導育成を行っている ( 白対協HPより)。なお、白対協ではシロアリ防除施工の保証期間を5年間と定めており防蟻剤の残効性能から10年保証は認めていない。
 白対協の認定薬剤は土壌用と木部用に分かれており、防蟻成分は20種類、防腐成分も9種類に及ぶ。各成分には一長一短があり認定試験を通過しているとはいえ防蟻成分の全てが昨今の住宅建築における予防処理に適しているとは言い難い。1995年の阪神淡路大震災以降、住宅基礎の大半は床下の土間をブロックやコンクリート壁で囲む「布基礎」からコンクリートを床下全面に敷設する「ベタ基礎」に移行しており、アルカリ性の高いコンクリート表面は多くの防蟻成分にとり適切な散布環境とは言えない。勿論のこと建築段階においてコンクリート敷設前に適正に土壌処理していれば問題ないが、時間を要す確認申請の遅れを取り戻すべく建築工程の短縮等でコンクリート敷設後に表面散布しなければならない物件がしばしば発生している。厳密に蟻害を防ぐためには適正に処理できるよう工務店等に理解を求めることが最良だが、現場の力関係によっては不当な条件を呑まざるを得ない場合も多々ある。
 そこで、数ある防蟻剤について各種防蟻成分の化学的特性および剤型からみた“適性”について考察してみることにした。これからの防蟻は、物件のおかれた環境に合わせて適材適所に選択すべきと考える。
 下記に各々の防蟻成分について適した予防処理方法を【土壌】(新築土壌処理)【ベタ】(新築ベタ基礎表面処理に耐える)【外周】(外周処理が適当) および【既設】の4つに区分し、これに【駆除】を加えて分類した。

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防蟻成分の化学的特性と剤型からみた適性分類

 ■合成ピレスロイド系;忌避性が強いため高い散布技術を要し、いずれも魚毒性が極めて高いため水系には厳重な注意が必要である。いずれも玄人向きの防蟻成分である。

【駆除】ペルメトリン;土壌中における分解が速いため駆除向きと言える。
【駆除】トラロメトリン;土壌吸着能は極めて高いが加水分解が速いため駆除向きと言える。
【土壌】【既設】【駆除】ビフェントリン;50℃以下で安定し紫外線分解もしにくいため残効性に優れている。予防から駆除まで適用できる。
【駆除】アルファシペルメトリン;酸性および中性土壌で安定するが紫外線と熱に不安定であるため駆除向きと言える。
【駆除】シフルトリン;常温および酸性土壌で安定するが分解は速いため駆除向きと言える。
【土壌】【ベタ】【既設】【駆除】シフェノトリン;熱および紫外線に安定で残効性に優れており安全性も高い。耐アルカリ性は決して高くないが製剤はMC(マイクロカプセル)剤のため新築ベタ基礎表面への使用にも耐え各種予防および駆除に適用できる。
【土壌】【既設】【駆除】プラレトリン;製剤はMC剤だが比較的分解が速いため蟻害発生リスクの低い新築予防および駆除向き。
【土壌】【既設】【駆除】ピレトリン;熱と酸に安定で加水分解を受けにくいが紫外線分解は極めて早い。製剤はMC剤のためベタ基礎表面でも適用可能できるが既設予防および駆除向き。

■ネオニコチノイド系;人畜に対する安全性は高いがシロアリ以外の昆虫にも広く作用するため大量散布は慎むべきである。忌避性はほとんど無く熟練度を問わず扱いやすい。

【土壌】【既設】【駆除】イミダクロプリド;紫外線以外では分解しにくく残効性に優れている。MC剤であれば新築ベタ基礎表面にも適用可能。各種予防または駆除向き。
【土壌】【ベタ】【既設】【駆除】アセタミプリド;紫外線にも安定し難分解性であるため残効性に優れている。各種予防または駆除向き。
【土壌】【ベタ】【既設】【駆除】クロチアニジン;紫外線以外では分解しにくく比較的残効性に優れている。製剤はMC剤であるため新築ベタ基礎表面でも適用可能であり各種予防または駆除向きと言える。
【土壌】【ベタ】【既設】【駆除】ジノテフラン;水溶解度が高いがアルカリ条件下でも比較的安定している。地下水位の低い立地の物件であれば新築から既設予防および駆除まで適用できる。
【土壌】【既設】【駆除】チアメトキサム 水溶解度がやや高いが紫外線以外では分解しにくい。地下水位の低い立地の物件であれば新築から既設予防および駆除まで適用できる。

■非エステルピレスロイド系;安全性は高いが合成ピレスロイド剤と同様やや忌避性があるため高い散布技術を要す。

 【駆除】エトフェンプロックス;極めて安全性が高く紫外線にも安定するが残効性は決して高くないため駆除向きと言える。
 【土壌】【ベタ】【既設】【駆除】シラフルオフェン;極めて安全性が高く難分解性のため残効性に優れている。耐アルカリ性にも優れているため各種予防および駆除に適用できる。

■フェニルピラゾール系;忌避性はほとんど無いが、施工時に経口・吸入暴露しないよう厳重な注意を要す玄人向きの防蟻成分である。

 【外周】【駆除】フィプロニル;紫外線で変性するが比較的残効性に優れている。毒性が高く床下全面処理には適さないことから外周処理と駆除向き。

■フェニルピロール系;忌避性はほとんど無いが、比較的食毒作用が強いため丁寧な施工を要す玄人向きの防蟻成分である。

 【土壌】【ベタ】【既設】【駆除】クロルフェナピル;紫外線以外では分解しにくくアルカリ条件下でも安定する。各種予防または駆除向きと言える。

■アントラニリックジアミド系;忌避性はほとんど無いが、食毒作用が強いため丁寧な施工を要す玄人向きの防蟻成分である。

 【土壌】【既設】【駆除】クロラントラニリプロール;紫外線以外では分解しにくく残効性に優れている。予防から駆除まで適用できる。

 防蟻成分の特性については、上記のほかに“効き方”があり、これはオペレーターにより好みが分かれるところであり、また、地域性もあれば各製剤の単価や物件の施工代金もまちまちであることからこれらを加味してご自身で判断いただきたい。
 すべての防蟻成分はメーカー各社が莫大な時間と労力とコストと信念を掛けて誕生させたものであり、多くの実験動物の命に支えられて完成された賜物である。今後の業務にほんの少しでも参考になれば幸いである。

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