もっと知りたいIPM☆・15 景気沈滞とPMPトップ100社

ジャック・ドラゴン(Contributor)

 PCT(ペスト・コントロール・テクノロジー)誌2010年5 月号恒例の特集記事は「NPMAトップ100社」です。同誌が統計をとり始めてから今年で9 年目。前年売上額で100位までのPCO業を比較分析したこの資料は、アメリカのPMP市場を概観できる、最も信頼の置ける資料のひとつとされています。
 今回はこの資料を基に、沈滞したまま低迷を続ける経済環境の真只中で、アメリカのPMPがどう振舞っているかを見て行こうと思います。

■ どう乗り越えるこの不況

 世界的な経済不況下の信用不安、米国経済衰弱のもととなった住宅産業の落ち込み、不安定な株式市場、自動車産業の崩壊、雇用の悪化などは、どれひとつとってもPMPの経営に直接大きな影響を与えています。
 CPA( 公認会計士) としてPMP業界に多くの顧客を持つダニエル・S・ゴードンさんは「彼らは目先の売り上げ増より、額の拡大は期待できないまでも、利益確保を目指していた」と、2009年のこの産業の成果を分析しています。つまり、氏の言わんとするところは、トップ100にランクされたPMP企業は「苦心のなかにも、それなりに一応の体面を保つことができた」ということなのでしょうか。
 とは言え、売り上げの約半分を一般住宅から得ている米国PMP業界には、08年春に顕在化した住宅産業の低落が大きな影を落としているのは否めません。当然のことですが、個人住宅関連の防除施工に大きな落ち込みが顕著でした。
 しかし、コマーシャル(食品施設など)部門はそれほどではありませんでした。コマーシャル部門の品質管理基準は年々厳しくなる傾向にあり、施主側が少しも手を抜けない部分になっているからなのでしょう。
 一方、世界大恐慌以来の経済ハルマゲドンに備えを固めようと、本来の市場へ正当なサービスの提供を心がけたPMPにはこの不況下でも需要がありました。たとえばシロアリ防除施工です。
 少し以前なら、シロアリ防除業は電話帳のイエローページ(職業別電話帳)に社名を載せるだけで営業できていたそうです。しかし、今はそのほとんどがネット広告で顧客を獲得しており、お互いに厳しい競争をしています。建設不況下ではなおさらです。ところが、そのような環境にあっても、「顧客と継続的なシロアリ保険契約を交わしているPMP」では、売り上げの落ち込みがそんなに大きくないというのです。
 また、スタッフの入れ替えや営業の引き締め策など、経費の削減も同時に行うことで、この荒波を乗り越えようとする動きもありました。突き詰めれば、業務の集約化かもしれません。

■ 食品衛生事件も売り上げに寄与

 ノースカロライナ州シャーロットのステリテックグループ社(10位・売上額約78億円)にその例を見ることができます。同社CEOのマーク・ジャービス氏によれば、2009年の同社のキーポイントは「食品業界に高まる食の安全と品質管理システムに注力」でした。
 食品業界にはブランドを守ろうとするサービスに対して、正当な対価を支払おうとする傾向があります。悪化する経済環境化でも、品質低下を防ごうとする欲求は強いのが食品業界なのです。その引き金となったのが、2009年1月に起きたPCA(ピーナッツ・コーポレーション・オブ・アメリカ)によるサルモネラ汚染事件でした。FDA(食品医薬品局)により、ピーナッツバターおよびその関連商品など、3000種類に上る商品の回収が命じられたのです(www.accessdata.fda.gov/scripts/peanutbutterrecall/index.cfm)。 同時に、PCAにはネズミと鳥によるサルモネラ菌の伝播が疑われたため、CDC(疾病予防管理センター)はそのことを国民に公表したのです(www.cdc.gov/salmonella/typhimurium/update.html)。この事件が食品施設の衛生管理にかかわるPMPの需要を高めたことは誰も否定できません。
 もうひとつフロックだったのがトコジラミの再興(リサ-ジェンス)でした。29位のプランケット・ペストコントロール社(同・18億5000万円) の社長ステーシー・オライリーさんによれば、同社が2008年に始めたトコジラミの熱処理が大成功だったとのことです。薬剤処理なら2 ヶ月必要だが500ドルで済むのに対し、施工が1日で済む代わりに1500ドルと提示すると、オライリーさんが驚くほどに、ほとんどが躊躇なくOワンne aアンドnd dダンone( 1 度でOK)サービスのほうを選んだといいます。当初はこのサービスを選ぶ顧客は全体の1割にも満たないだろうと、高をくくっていたらしいのですが、いざ蓋を開けてみると皆がこのオプションを選んだと言います。物理的防除を導入したIPMの好例と言えます。

■ トップ100社の6割が売り上げ増

 職を失う人や家まで手放さざるを得ない人が増えるなど、2009年はアメリカのさまざまな産業界に、前年に引き続き悪いニュースをもたらす年でした。しかし、PCT誌の担当編集者リサ・マッケンナさんは「PMP業界には地すべり的不況は見られなかった。なぜならトップ100企業を詳しく見れば、この悪環境条件にもかかわらず、その60%は売り上げを伸ばしている」と分析しています。
 ケンタッキー州ルイスビルに本拠を構えるOPCペストコントロール(93位・同4 億5000万円) は、効果的な広告を打ったことで、前年比12%アップの成果をあげました。NPMA(全米ペストマネジメント協会)会長を勤めた経験を持つ同社社長ドニー・ブレイクは、彼の“必勝広告戦略”について、「広告こそ金」と公言します。
 まず、同社のウエブサイトを徹底的に作り変え、一旦ウエブにアクセスした顧客を絶対に逃がさないというPペイay pパーer cクリックlick(クリック即支払い)作戦をはじめたのです。もちろんユーザーフレンドリーと顧客との対話を重視することに心がけた上でのことです。
 次に、OPC社は屋外広告板の重要性に着目しました。主要顧客層の住むルイスビルの繁華街に続く高速道路の広告権を買い、社の存在と主張をはっきりさせたのです。その方法とは、巨大な害虫の写真に社名を真っ赤な大文字であしらって、決して見落とされることがないように仕向けたのです。「金はかかるさ。でも、見た人が『あんな気持ち悪い広告見たことない』って、話題にするだろう?」とブレイク社長は言います。
 広告で事業が伸張するならたやすいことですが、それだけで業績向上とはどだい無理な話です。87位にランクされたバージニア州のナショナルエクスターミネーティング社(同・4 億9000万円)モース社長は「うちではオペレーター(現場作業員)の配置換えをして、作業車1 台で何でも対応できるようにしたよ。作業車をプロフィットセンターに変えたのさ」と言います。専門性の高い米国のPMPには、一人ですべてこなすようなやり方が今までは通用しませんでした。でも、この不況がそうせざるを得ないように仕向けたのです。
 ほかにも、シロアリ防除と通常の害虫防除の、どちらかをやっていない業者同士が、サービスを交換し合って補完し合うという例もありました。こうすることでお互いの広告費の削減につながるという、メリットも生じることになりました。

■ グリーン防除を目指さざるを得ないPMP

 さて、最近は人気がもうひとつのオバマ政権ですが、グリーンニューディール政策を打ち出して政権を奪取したころ、国民の期待はいやが上にも盛り上がりました。ディールには“取引”や“契約”の意味があります。それでオバマ大統領が環境に優しい(グリーン)新ビジネスを成長させると、誰もが信じたのです。そしてそのテーマと言えば、まさにグリーンが象徴する“環境保全”でした。グリーン防除を目指すNPMA の方向は間違っていないように見えます。上に述べたトコジラミ防除への絞込みや、サルモネラ関連で食品衛生に注力したなどもそのよい例でしょう。
 そして、ついにEPAは、トコジラミ防除にプロポクスルを使用したいとする、オハイオ州の求めをも拒否したのです(TheColumbus Dispatch、2010)。EPA長官リサ・ジャクソンさんが、就任時の公約通り化学物質の規制に本格的に取り組み始めたのかもしれません。
 さて、残念ながら日本においてもこの経済不況はまだ続きそうです。化学防除に規制の強いアメリカのPMP業が、どのように売り上げを維持できたか、ご参考になりましたでしょうか。私がこのような米国事情をお話しするのは、日本のPCOの皆さんにも「グリーン防除を目指さざるを得なくなる」日が目前に迫っているからにほかなりません。

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