ペストワールド2009:ラスベガス大会から‐②

鵬図商事株式会社 顧問 岩本龍彦

(エデュケーショナルセッション前号からの続き)

(2)クオリテイ・プロとグリーン・プロで始めようアンドリュウ・アーキテクト(NPMA)

 筆者がアメリカのPMPたちについて、常々疑問に思っていることのひとつが、業界紙に書かれるような、また講演の中で聴くようなIPMを、果たして行っているのかどうかだ。それで、この講演は筆者にとって今大会での最も興味あるもののひとつだった。
 PCO(ペストコントロール)がPMP(ペストマネジメント)の時代に入って久しいこの時代に、更に何が求められているのか。NPMAのスタッフであるアーキテクト氏は、徹底したIPM手法の研究を基にした顧客管理であると結論した。
 ただし、これら制度の普及はまだまだで、200人以上も入れる会議場に聴講者はほんの数十名。会員数の大きいアメリカでも本当のプロを心がけるPMPは、存外少ないのかもしれない。筆者にとって、その一端を知るセッションでもあった。

①クオリテイ・プロ誕生の背景

 PMPにとって、IPMの追求が当たり前になった現在、どこにその競争力を求めるかが最大の課題のひとつとなっている。
 NPMAは管理顧客(ターゲット顧客)に対して、彼らが何を望んでいるかを調査した。その結果をもとに、度重なる戦略計画会議を重ねた末、ブランド権の確立が重要との認識が生まれた。そのブランド権とは、顧客に受け入れられやすく、信頼性の高い、ダイナミックなもので、かつビジネス自体を刺激するものでなければならないとされた。
 こうして07年1月に誕生したQuality Pro制度は08年8月までに、450社が認定を受けるまでに成長したのである。

②クオリテイ・プロ制度:クオリテイ・プロの証明

 従事者に対する2週間にわたる現場研修、200問に上る筆記試験などを超えて、なぜPMPがこの制度を利用したがるのか。一言で言えば、これらの実習もしくは試験が、各企業の従事者にインセンテイブとなり、彼らのモチベーション向上につながっているという事実がある。さらに、研修だけではなく、従事者はNPMAが監修する6ヶ月研修用の3分冊からなる教科書も読了しなければならない。
 「では、なぜこうまでして、PMPがこの制度に入りたがるのか。ユニフォームや車にロゴタイプが入れられるメリットが欲しいのか。いや、それだけであるはずが無い」とアーキテクト氏の熱弁が続く。最大の理由は、マーケテイング上のアドバンテージが欲しいからだ。NPMAが総力を挙げて、クオリテイ・プロを支援していることを理解しているからだ。つまり、個々の企業のマーケテイング力だけでは、見込み顧客へのアプローチ力が小さいが、協会が推奨するブランド力がそれに増して大きなものになるからである。
 Co-Branding Marketingの運営による、ウエブサイトの共用などの利益が大きいのである。そのほかにもDecal(移し絵)、Lapel Pin(襟につけるバッジ)、Patch(ユニフォームに縫い付けるマーク)など、協会が保証する証が役に立つ。Quality Pro制度は毎年の見直しを行い、内容を充実させながら年毎に発展を重ねて行くのである。

③グリーン・プロ制度

 クオリテイ・プロをさらに一歩進めたものがグリーン・プロともいえる。環境保護やエコロジカルな考え方が、いっそう強く打ち出されている。
コロラド州デンバーがグリーン・プロの発端の地。07年11月に提唱された。グリーン・プロ制度(昨年まではクオリテイ・プロ・グリーンと呼ばれていた)が提案されると同時に、PMP自身と顧客のグリーン度を測るための調査が行われた。すなわち、

  • 消費者(顧客)がどんな反応をするか
  • お宅の会社(PMP)のグリーン度はどのくらいか

 PMPと顧客の“グリーン”という言葉への反応が確かめられたのである。その当時から、ターゲット顧客がオーガニックフードや(アルコール抜きの)ビバレッジ飲料をしきりに求めるようになっていたという、背景もあった。
果たしてこのNPMAが目指している方向は好感を持って迎えられた。現在(09年10月)時点で40社が指定され、いまのところ75社がこの認定を受けるための準備中という。
テキスト本や認定のプロセスはクオリテイ・プロとほとんど同じと考えていただきたい。NPMAではPMP企業1社に1人のグリーン・プロ育成を目指して行く。ちなみに、このプログラム作成に関与する委員はNPMA、企業代表者、行政官ならびに学識経験者で構成されている。
 我々(NPMA)も驚いているのだが、この制度はEPA(環境保護庁)でもなく、NCHH(National Center for Healthy Housing;米健康住宅センター)でもなく、NRDC(Natural Resources Defense Council;天然資源保全協会)が支持してくれたのです。
 「ご承知のこととは存じますが、NRDCといえば、PMPとは自然界に無い化学物質を撒き散らす職業であると、常に我々を非難してきた団体なのですから」(業界誌PCT、09年8月号に関連記事がある)PMP業界を眼の敵にしてきた環境保護団体のNRDCがPMPの肩を持つ、異例の声明を出したのだ。
 グリーン・プロ制度認定のPMPには、いまアメリカで大問題になっている「ドラッグ・ポリシー」が適用されているそうだ。従業員に麻薬常用者がいないかが問われる。会場のPMPからは、そのような人間を「どのようにテストするか」「過去の経歴を洗うことは可能か」など、数名から質問が出て、アーキテクト氏立ち往生の場面もあった。
 いずれにせよ、害虫防除の方向がグリーンに向かうことは明らかで、とくにレジデンシャル(一般住宅防除)ではグリーン・プロの保証がなければ立ち行かなくなるだろうと結んだ。一般住宅向けコンセプトにecomagination™のロゴを採用することになった。

(3)FIFRA(連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法)除外製品は効くのか、規制なしでよいか

 ジョージア州農務省やニューメキシコ州の地方行政官、BASFなどメーカー代表者ら6人が会場の聴講者と意見を戦わすセッションだ。
 PMPはこのところ環境にやさしい(Environmentally Friendly)薬剤を探すのに躍起だ。そこで思い浮かぶのが、いわゆる“25(b)”製品である。厳しいといわれるEPAの規制を免除されている殺虫剤だ。安全性が高いとされるが、その効力は果たしてどうなのか。
 筆者は以前、小誌Vol.295(HOHTO PMP NEWS 08年7月号、PP.4~5)に、アメリカの規制外殺虫剤について書いたことがある。それで、アメリカのPMP達は本当にこのような薬剤を使っているのかと、かねがね疑問に思っていたのである。
 適当に(まさしく適当に)着席した。聴講者はその周りで彼らの討論を聞く形である。たぶん台本など無いだろうと思う。まず、司会者が「FIFRA(連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法)セクション25(b)条項を知っている人は?」に数人が手を挙げた。
 各州の話題提供に始まり、規制の有無を問われ、ニューメキシコ州EPAの女性行政官などは「ジョージア州はそうらしいけど、うちでは何もしないわ」と笑って逃げた。
 では25(b)条項の扱いといえば、各州EPAの話題を整理すると;

  • 州によってこの条項の扱いが異なる
  • 効力試験の提示は必要ないだろうし、登録申請に必要な試験成績など、試みるところも無い
  • 何の手も打っていない
  • 「製剤はフォギングで使うらしいけど、その中の何が効いてるのかわからないわ」

 などなど、この条項そのものが怪しい。もともと、慣例法の習慣があるアメリカでは、このような法規制が間々あることがある。
 たとえばいまオバマ政権を悩ませている国民皆保問題だが、付保できるだけの金持ちが少ないため、アメリカでは一般用医薬品(OTC;大衆薬)が幅を利かせている。ところがこれにも規制外の主旨に似た条項(グランドファーザー条項)がある。つまり、大げさに言えば、西部開拓時代から使われている民間伝承薬ならば安全だから認めてよい、という考えである。さる大手製薬会社の痔薬は単なるパン種だ。イースト菌がその他の雑菌の繁殖を抑えるというコンセプトである。
 さて、肝心の25(b)のほうはどうかといえば、出席者も奇異に感じていることがわかったが「EPAの動きがVery Very遅い」「たぶん手をつけないでしょう」で片付けられた。
 環境衛生用(あちらでは公衆衛生用と呼ぶ)のゴキブリと蚊の適用は入れられないだろう、という。なぜなら、登録基準にそれぞれ3例の効力試験成績添付が義務付けられているので、これに応じられる企業がないからだ。ただし、OTCにはこのような例外製品があることは出席者全員が認めた。また毒性はDose(薬量)の問題なので、別問題だとなった。
 結局のところ、このセッションは雑談会のように終わった。
 ちなみにどんな製品に25(b)条項が適用されるかをご参考までに書いておこう。
<EPAの規制外農薬>
 シナモンとその油分、シトロネラとシトロネラオイル、クローブとクローブオイル、コーングルテン、コーンオイル、棉実油、ドライドブラッド(乾燥血)、オイゲノール、大蒜と大蒜油、ゲラニオール、ラウリルサルフェート、レモングラスオイル、ミント、ローズマリー、2-フェニルプロピオネート、ソルビン酸カリウム、塩、大豆油、胡椒、亜鉛板など全部で25種に上る。

(4)ゴキブリからアリまで究極のIPM

ゲイリー・ベネット(パーデユー大学)、ケーシー・ハインゾーン(NPMA)
 ゴキブリ類と5種のアリ類に対する殺虫剤の効力試験成績比較を講演した。パーデユー大の恩師と弟子の競演である。両者はゴキブリとアリに関する、今昔のデータを比較しながら、究極のIPMにおけるベイト剤の力果について述べた。

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①ゴキブリの効力試験:ケーシー・ハインゾーン(NPMA)

 まず、大先生ベネットさんの愛弟子であるケーシーさんの講演だ。
 ベネット大御所の露払い役として、ゴキブリに対する各種薬剤の反応を披露した。例のとおり、茶目っ気たっぷりの講演で、好感が持てる。ただし、データとしては、すでに知られたものばかりで、PMPにとってもそれほどの魅力ではないゴキブリ市場とあっては、新鮮味に欠けるのも致し方ないだろう。
 その中で、IGR剤で処理したゴキブリの形態変化の映写が、筆者にとって唯一興味がもてるものであった。
 ケーシーさんはNPMAに勤務するドクターで、私より首ひとつ大きい大変に大柄な女性なのだが、とてもチャーミングで愛想がいい人だ。昨年のNPMAでは国際会員のための1日ツアーがあり、彼女が以前に勤務していたPMPへ連れて行ってくれた。

②アリ類の効力試験:ゲイリー・ベネット(パーデュー大学)

 試験に用いたアリ6種のアリはペーブメント・アント、カーペンター・アント、アクロバット・アント、ファラオ・アント、アルゼンチン・アント、オドラス・ハウス・アントである。
 筆者は他のアリはともかく、いま日本で問題になりつつあるアルゼンチンアリの研究がどれほど進んだか、聞きたかった。
 ところが、ところが、残念なことにスライドが故障してしまい、先生手元の原稿を読むしかなくなった。ハプニングである。しかし、やはり大御所のことはある、淡々と原稿をお読みになる。筆者は彼らが原稿なしに講演するのが当然と、今の今まで考えていたのだが、決してそうではなかったのです。
 OHA(オドラス・ハウス・アント)には「Transport(FMC)が最も速効性があり、Termidor SC(バイエル)は残効性が強いので、地上散布や構造物への散布に適す」など、業者への気配りはさすが。
 さて、肝心のアルゼンチンアリではどうかといえば、「生息場所への直接散布(スプレー)で、双方の薬剤ともよく効いた」そうだ。ベイト剤による室内試験では、Advion(デユポン)とMaxforce Quantum(バイエル)の効果比較データが披露された。
この二人のコンビの話は聴いていて楽しい。次の日に展示会場でケーシーさんに出会い、「ベネットさんの講演より面白かった」といったら、ウインクしながら、シーっと唇に指を当てるなど茶目っ気たっぷり。ある殺鼠剤メーカーの展示ブースのラットレース(無線で走らせるマウス)で彼女に挑戦した私は、残念ながら負けてしまった。でも、何のことはない、彼女は知った顔を見つけては何度も練習していたのだもの。


 筆者が参加したセッションを毎年お届けするような形式でリポートした。冒頭に掲げた彼の地のPMPたちが直面する課題;ニューディール政策に歩調をあわせることと、新ビジネスに成長するかもしれないトコジラミ防除、それぞれの現状について、ある程度のご理解をいただけただろうか。
 本当はエキジビション・ホールの目玉商品についても触れたかったのだが、リポートがあまり長くなってもと、割愛した。その分、前号のニュー・プロダクト・ショウケースをお読みいただきたい。展示会場にはPMP専用車のコーナーもある。ご参考までに2車種をお見せする。



 日本の新聞はあまり取り上げなかったようだが、27日のニュース番組はNASAによる世界最大のロケット打ち上げで持ちきりだった。このAres 1-Xと呼ばれる、全長100メートル超の巨大ロケットは、宇宙ステーションへ人や機材を運んでいる現在のスペースシャトルに代わるべく実験中で、オバマ政権の大きな課題のひとつと目されているらしい。
 それだけに、フロリダにあるケネディ宇宙センターの天候を見ながら、5分刻みでGOサインが延期されるごとにTV放映が繰り返されていた。(ワールドシリーズの真最中なのにね。ただしこの日、ゴジラ松井の出番はなかったから、それでよかったのかもしれない。松井はこのシリーズで計6本のHRを放ち、日本人初のシリーズMVPを獲得する)
 いつもだと最終日はお別れ晩餐会があるのだが、今年はそれに代えて前日の夜9時に始まる、“ワールド・クラシック・ロッカーズ”による「ペストワールド・ベガスナイト」で盛り上がった。いずれも往年のロッカーたちだそうで、ロックファンにはたまらないだろう。演奏するのはポピュラーなクラシックロック。1000人ほどの観客が飲み踊る様は時間とともに高揚し、11時過ぎまで続く。
 この時期、アメリカでも新型インフルエンザH₁N₁は脅威となっていて、28日のCNNはオバマ氏の2人の娘がワクチン接種を受けたことを大きく報じた。いま、オバマさん関連ならどんな事でもニュース性がある。


 2000年大会もベネティアンで開かれており、私にとって2度目のラスベガス大会だった。当時のラスベガスは、賭博の街から国際会議都市へと変身を遂げたときであり、それ以前に個人旅行で経験した「ある種の怖さ」が消えていたことを感じたのを想いだした。今のベガスはさらに発展している。ベネティアンに隣接の高級ホテルパラッゾ(会場は実はここだったのだが)を吸収したベネティアンの影になって、往時の高級ホテルだったウインは通りから見えなくなってしまった。けれど今回、日ペが催したウインでの夕食会のビュッフェもなかなかのものだった。
 賭博の街ベガスでは飛行場の搭乗口にまでスロットがある。10年前に経験したことなのだが、ふとポケットを探ると25¢が2枚残っていた。タラップを上る寸前だったが、クオーター2枚入れの機械があったので、レバーを引いたらなんと777。小さなトタンのバケツに山盛り2杯の25¢貨が出てきた。持ち帰っても換金できない。で、搭乗券のモギリ嬢に「5分待って」と言い残し、いったん検査場を出て紙幣にしてから駆け戻った。
 今回はそうは行かなかった。大体からスロットマシンからして進化してます。あれは多分に、我が国最高の文化・進化し続けるパチンコとスロット機を真似してますよ、きっと。
 来年度の年次大会は2010年10月20~23日に、ホノルルのハワイ・コンベンション・センターおよびヒルトン・ハワイアン・ビレッジで開かれる。(龍)

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