ヒラタキクイムシ類の駆除方法の考察③

奥村防蟲科学 奥村 敏夫

 その後、しばらく経過を観察したところ、その後も建材への影響は見られなかったが、虫が再び発生した。居室ドア枠と壁とのわずか15mmほどの隙間と、天井と壁との取り合い部の角からであった。新たに虫孔が開き成虫が脱出した。
 原因について検証したところ、スチームクリーナーの蒸気噴出口がドア枠に接触するために密着できず、熱を充分に加えられなかったものと推察された。また、天井部との取り合い部においては、天井のプラスターボードへの加湿を避けるため、噴出口を数ミリ程度下げて処理したのが原因と考えられた。
 この様な隙間と角については、スチームクリーナーの付属品にあるノズルを用いることで熱処理が可能であったが、施工時は持ち合わせていなかった。基礎的な部分であるが、準備は万全にしておくに越したことは無い。なお、面状に処理した部分からの再発生はその後も無く、一定の効果が得られた。
 熱処理を実施する上での注意点としては、被害が広範囲に及ぶ場合、一箇所当たりの熱処理に時間を要すことから、全部の処理は現実的に不可能とされる事態が想定されること。また、薬剤のような残効性は見込めないため、二次的な防虫効果はないこと。さらに、今回のような人為的なミスも起こりうることから、理論上では確実かつ安全に駆除できる手段ではあるものの、駆除は困難と言わざるを得ないことである。
 しかしながら、ヒラタキクイムシ幼虫の材中における行動には注目すべき習性があり、幼虫が材表面近くに来て蛹室をつくり蛹化するというものである。この生態を利用することで、熱処理の成功率はおのずと高められるものと考えられる。
 ヒラタキクイムシの成虫は毎年4~8月にかけて材から脱出し、自然環境では5~6月が最も成虫の発生頻度が高いが、冬期暖房のある室内では幼虫の生育も早く、2~3月から出現し始める5)。つまり、幼虫の蛹化時期は無暖房環境下では4~5月であるのに対し、暖房環境下では1~2月である。したがって、材中の幼虫が材表面へ移動するこの時期を狙って熱処理することでより効果的に駆除できるものと考える。
 私は熱処理と殺虫剤のどちらか一方のみでは不充分であると考える。両者ないし他の様々な手段を組み合わせることでより完成度の高い駆除が可能になるものと考える。今日までに得られた観察経験と、文献ならびに薬剤に関する知見を基に、ヒラタキクイムシ駆除について考察してみた。

くん煙剤による成虫の駆除
 ヒラタキクイムシの成虫は薄暮活動性(昼行性と夜行性の中間)であり、アフリカヒラタキクイムシは昼行性である。また、成虫は材中から脱出直後、周囲を歩行しすぐに飛翔しない。よって、くん煙剤を用いる場合は、成虫の発生時期において各種ごとの活動時間帯に処理するのが最も短時間で効果を発揮するものと考えられる。なぜなら活動時間帯以外は、材の下部や裂け目などに潜伏したり、脱出孔へ再侵入したりするためである。なお、成虫は普通1~4週生存し、この間に交尾、産卵することから、成虫が確認された都度、繰り返し処理しなければならない。

ライトトラップによる成虫の補殺
 ヒタラキクイムシの成虫は一時期に走光性(光源に向かって飛ぶ習性)に変わるらしく、被害場所近くの窓際に成虫やその死骸が多く発見される。このことから、成虫の発生している室内および壁裏や天井裏に粘着シートを装備したライトトラップを設置するのが成虫の密度を減らすのに効果的であると考えられる。なお、成虫の飛翔はさほど活発ではないため、ライトトラップの設置場所は虫が歩行によっても侵入できるよう、室内であれば床面に、壁裏であれば底面に、天井裏であれば天井床面に設置することが求められる。

超音波式含水率計を用いた壁材における幼虫
の発育適性診断
 ヒラタキクイムシ幼虫の発育は含水率12~15%の辺材が最も良いことが確かめられており、産卵は含水率7~30%の範囲で、最適は16%である。したがって、壁面に当てた含水率計の数値を読み取り、発生が懸念される範囲をあらかじめ特定しておくことも対策の一つになるものと考える。

抜本的な対策
 ヒラタキクイムシの幼虫は澱粉質の含有量が3%以上の広葉樹辺材で成育する。針葉樹材は広葉樹材に比べて栄養分(特に澱
粉)が少ないこと、さらには針葉樹材に含まれる抽出成分が産卵および幼虫成育の阻害要因として働いている可能性があることが指摘されている。このため針葉樹には産卵できず、被害を受けない。また、全面を塗装されている材にも産卵できない。したがって、このような材を使用すれば、ヒラタキクイムシ類の被害は発生しない。
 貯木中の木材の導管に栓をすることにより産卵を妨げることもまた得策である。
 Hopins and Snyder (1971)は木材を心材、辺材、部分辺材のごとく材種に従って、また、乾燥年数ごとに分けることが管理に当たって時と労力とを節約するために有利であるとしている。
 また、古い木材の堆積を避けるように、すなわち貯蔵状態をできるだけ速やかに無くすように忠告している。

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参考文献 等;
1)雨宮昭二,野淵 輝,ラワン材の防虫(増補改訂),㈶林業科学技術振興所,pp18-81,pp85-92. 1986
2)シックハウス対策の総合情報よりhttp://sickhouse.ansin-sumai.com/
3)森 満範,2008, ヒラタキクイムシ類による被害の実態,北海道林産試験場報告
4)岩田隆太郎,家屋害虫事典,㈱井上書院,pp243-252,1995
5)布村昭夫,1968,ヒラタキクイムシの生態と防除(1),北海道林産試験場報告
6)野淵 輝,鈴木憲太郎,乾材害虫と屋内で発見される昆虫,㈶林業科学技術振興所,pp. 43-48, 1993
7)布村昭夫,1968,ヒラタキクイムシの生態と防除(2),北海道林産試験場報告
8)小野正武,1984,小島俊文著 ナラヒラタキクイムシに関する知見論考(論文紹介),家屋害虫 (19,20),pp. 57-77.
9)篠永 哲,武藤敦彦,住環境の害虫獣対策 第7節,㈶日本環境衛生センター,pp. 148-149. 2001

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