建設業者の防虫対策

2.屋内繁殖害虫対策(害虫の搬入防止対策)

元 ㈱竹中工務店 エンジニアリング本部 稲岡  徹

Ⅰ.はじめに
 屋内繁殖害虫といっても、最初は何らかの形で外部から侵入し、それが子孫を残し増殖した結果、屋内繁殖害虫と呼ばれるようになったわけです。このような生態をもつ害虫の侵入経路として、最も重要なのは搬入です。即ち、自力で建物に入り込むのではなく、物品や人に付着して運び込まれる経路です。
 別の見方をすると、すべての害虫は搬入によって建物に入って来る可能性があります。しかし、その数が少なく増殖しなければ、害はきわめて限定的です。また、建築的防虫対策の観点から見ると、搬入の防止はたいへん難しく、費用がかかる割に効果が上がりません。
 筆者が勤務していたゼネコンで、かつて自動容器クリーナーと称する害虫搬入防止機を開発したことがあります。これは、食品や医薬品工場で荷物を運びこむ際、ダンボールなど包装資材の表面にエアを吹き付け、さらにブラシがけをして荷捌き室に入れるという、かなり大がかりな機械設備で、確かに外側に付いた虫や埃は完全に除去されましたが、包装資材の内部には効果がなく、価格も1台1,000万円以上と高いため、普及しませんでした。
 食品を扱う施設の場合、運び込まれる資材の内部にあって、最も虫が付きやすい物品、それは言うまでもなく食材です。その中には加工されて大きく姿を変える穀粉のような原材料もあれば、ほぼそのままの形で製品となるサラダ菜のような材料もあります。これらに付いた虫や虫卵は、篩(シフター)や洗浄機によって除去されますが、それらの機器は各専門メーカーによって常に改良され高性能化しています。建設業者としては、害虫の搬入防止対策の主役の座は、これらメーカーに譲り、搬入後の増殖防止に力を傾注するという方針を取っています。

Ⅱ.屋内で害虫の増殖を防止する手段
 建築的防虫対策として採用できる増殖防止の手段は、次の二つに集約されます。一つは屋内の温・湿度の調節であり、もう一つは汚れが溜まり難く清掃し易い建物の構築です。今回は、温・湿度について述べます。
 昆虫を始めすべての害虫は変温動物であり、その発育速度は温度に支配されています。表1に、各種食品に混入する頻度の特に高い屋内繁殖性昆虫(写真1)の発育零点と有効積算温度を示しました。この二つの数値から、ある温度下での昆虫の発育日数を計算できます。たとえばチャバネゴキブリが30℃の温度条件下に生息している場合、450日度÷(30-20℃)=45日で、卵から成虫になるまで45日を要します。
 発育零点以上の温度であれば、理論上は虫は繁殖を繰り返すことができる筈ですが、現実には何世代にもわたって繁殖可能な増殖限界温度は、発育零点より3~5℃高いと言われています。また、大多数の害虫の発育最適温度帯は22~32℃あたりにありますので、屋内温度をこのような温度域から遠ざけるほど、害虫の増殖は抑制されます。
 このような観点から、施設内のほぼ全域を18℃に設定して稼働しているケータリング工場があります。この工場ではPCOによる害虫モニタリング調査が行われており、それによると排水系でホシチョウバエが継続的に捕獲される以外は、屋内繁殖害虫の捕獲はきわめて少なく、低温管理は十分効果を上げているように思われました。しかしながら、建設業者の立場から言うと、この温度を維持するための空調系への初期投資、ランニングコストとも重く、また、従業員の作業環境の快適性から、広く一般に推奨するには躊躇があります。
 より低コストで気軽に導入できる方法としては、原材料保管庫に限定した低温管理が推奨できます。ここは屋内繁殖害虫の温床となりやすく、しかも増殖が起こると、その影響は全工程に及ぶからです。この場合の設定温度は13~15℃で、特別な低温型害虫以外の増殖を阻止できます。また、この温度は穀物、穀粉、生薬などの品質維持にも好適とされており、これらを扱う施設に対しては特にお勧めしたいと思います。
 屋内繁殖害虫の中で、かなり重要な位置を占めるグループに食菌性の昆虫があります。その代表がチャタテムシとヒメマキムシで、特に前者に属するコナチャタテ科の諸種はありとあらゆる建物に住み着き、食品等への異物混入もしばしば報告されています。彼らの主な餌はカビで、施設内が高湿度化してカビが生じると時に大発生して、ひどい場合、食品工場などでは一時的な操業停止に追い込まれることもあります。
 このような事態を予防する最善の方法は、施設内の湿度調節です。空調により相対湿度を常時60%以下に維持すれば、乾燥に強い好乾性のカビも完全に防ぐことができます。また、空調による湿度管理に加えて、大量の水蒸気が発生する工程では、それを速やかに外部に逃がす排気設備の設置、極端に高湿度化しやすい部屋を他から隔離するといった方策も有効です。

害虫駆除に関するご相談はこちら

  • クリンタウン
  • 虫ナイ

PMPニュース315号(2012年10月)に戻る