最強のモニタリング・トラップ:モハンムド・エル・ダミール(アダムズ・ペストコントロール)

 IPMの現場からアダムズ・ペストコントロール社のダミールさんが、食品取扱施設におけるモニタリングの実際を語った。博士号を持つダミールさんは、IPMの最も大切な構成要素(キー・コンポーネント)がモニタリングだと、指摘する。
 はからずも、食品施設におけるモニタリングの総説を聞けたわけだが、彼にとってのモニタリングとは“平時の観察”にすぎないのだという。

1.IPMにおけるモニタリングの意味
 まずは害虫の種を同定する。その生態はなにかを知ろう。早急にディテクションできればその後の拡散を防ぐことが容易になる。防除に最適な時を知ることができるし、その後のモニタリングで、その防除が有効か否かの評価ができる。

2.マルチプル・キャッチ・トラップ
 複数の害虫やネズミを捕まえることができるマルチプル・トラップを紹介。その代表例として、ハツカネズミ用トラップを見せ「このトラップは1 度に12~20頭も捕獲した」。
 トラップにはIDナンバーを振り、ステッカーかパンチカードを貼付して、調査の日付を記録する。バーコードを使えばあとがやりやすい。ネズミ用のグル―・ボード(粘着トラップ)は単純かつ安価なトラップとして利用したい。

(1)粘着トラップの利点と欠点
まずは利点から;
・毒性物質を含まない
・昆虫用、マウス用、ネズミ用など様々なデザインとサイズが豊富
・使用に簡便。すぐに使える
・ベイトステーションの中に仕掛けられるし、ライト・トラップに仕掛けるものもある
欠点と言えば;
・汚れの多い所、水で湿った場所、高温の屋内では効果が薄れる
・ネズミ類はときにトラップを忌避することがある
・ネズミ類では体の一部(例えば尾など)がトラップされたまま、他の場所へ引きずって行き、周囲を汚すことがある
・定期的な交換が必要
・野鳥など標的外生物を捉えてしまうことがある

(2)インセクト・ライト・トラップ(ILT)
 ILTは利用価値の高いモニタリング器具として、いろいろなタイプ、形状とサイズがある。装飾型のILTなら公共の場所にも適用できる。UVランプを備え、主としてハエ類や蛾の仲間を粘着紙に捉える。ILTを貯穀害虫の捕捉に使うこともある。
 インセクト・キューターはグリッドに触れた昆虫を感電死させる。

(3)フェロモン・トラップ
 昆虫の出すフェロモンに似た合成化学物質が添加される。利用するフェロモンには、セックスフェロモン(雌が雄を呼ぶ)と集合フェロモン(雌雄両性が食物のありかや隠れ家に集まる)の二通りがある。
・セックスフェロモン:交尾期に利用するので短期間の使用に限られる。イガ類やタバコシバンムシに適用。
・集合フェロモン:主として比較的に寿命の長い昆虫に使われる。

(4)フェロモン・トラップに影響を与えるさ
まざまな要素
①トラップの配置数;トラップの配置数は現場の広さ、フロアーの数、入り組んだ現場、それにコストを加味して決めること。いたずらにメーカーの言うままに使わないように。
②標的生物の行動習性を知ってから
③トラップの形状と色;水平な面を持つトラップの方がノシメマダラメイガをよりよくトラップするという報告(Nansen et. al.2004)もある。
・ノシメマダラメイガは貯穀のすぐそばで捕まる率が高い。
・雄のノシメマダラメイガは黄、青、白色のトラップよりも、黒か茶色の方に多く集まる。
④トラップの高さ;ノシメマダラメイガは食品から2 ~ 3 フィート(約60~100cm)の高さで、壁面にできるだけ近づけて配置すると良い。
⑤昆虫の活動性;
・ノシメマダラメイガは青色や黄色のトラップよりも、赤、茶および黒色に集まる。
・フェロモン・トラップから昆虫の方に風の動きがあると、多く捕捉する傾向がある。
・気温も関係する。昆虫は90~100°F(約32℃~38℃)で活発化する。
⑥ILTに影響する要素;
・ILTトラップの取り付けの高さは床上5 ~6 フィート(約1.8m)を超えないこと。
・多くの昆虫は100フィート(約30m)までの光を認識するが、イエバエでは25フィート(約7.5m)くらいまでとされている。・したがって、25~50フィート(約7.5m~15m)ごとに配置するのが望ましい。
・暗い場所に置く方が、日の光や電灯の明かりのあるところより捕捉率が高い。
・ILTを置いてはいけない場所;外部からUV光が見える、食品の側や貯穀の表面に近い個所。(このような場所では壁掛け式のみを使用する、食品の表面から3 フィート(約1 m)以上離し、食品が露出しているところでは5 フィート(約1.5m)以上離す)

(5)トラップの点検を適切な期間で主要な貯穀害虫のほとんどは21~35日で一生を終える。加害期間を考慮に入れて、トラップ類の適切な交換が必要。その際、天候、その場の清潔状況および製品の搬入状況なども害虫の移動に影響する。通常は7 ~14日間隔のトラップ交換が推奨される。
(6)データを正しく読み補正する捕捉数の急な増加があったときは、清潔状況、天候の変化、および貯蔵品の移動の有無などを考慮に入れてデータを補正する必要がある。
(7)データを分析し、害虫の生息密度変化を把握する長期間にわたる観察を続けることで、起こりうるリスクを予測し、とるべき予防手段を想定する。
(8)外部施設にも気を配れノシメコクガでは、内部をメチブロくん蒸後も、建築物外周にいたものが再び屋内に侵入するケースが顕著に見える。(Doud andPhillps 2000)

(9)顧客教育の大切さ
標的昆虫だけでなく、たとえ防除をする必要のない昆虫についても把握し顧客に報せること。中にはインスペクションに長期間かけるよりも、薬を使う方が近道と思っている顧客もいる。害虫管理は必ずしも定期的な殺虫剤散布でできるわけではなく、イクスクルージョン(害虫の排除)や環境整備やモニタリングにおいても同じことが言える

(10)あなたのモニタリング計画をよく理解しなさい
 モニタリング・トラップは害虫発見の手がかりなのだが、成虫の捕捉数が、いつも実際の生息数と関連するとは限らない。施工箇所の環境や、環境保護などエコロジカルな課題を把握し、新規にモニタリング・トラップを使用する際は事前テストをすることが好ましい。

 モニタリングの持つ意味やトラップの仕掛け方まで、微に入り細をうがつ説明があった。モハンムドさん、いったい何枚のスライドを使っただろう。IPMの骨格とも言えるモニタリングをここまで具体的に語ってくれた。
 筆者は田中生男さんらの「建築物におけるIPM実践ハンドブック」(中央法規出版、2008年)を、日本のPCOが頼るべき第一の教科書と信じている。皆さんのお手元にあるこの書をどうかもう一度読み返していただき、モハンムドさんの指摘を、書き加えていただけないだろうか。

 エデュケーショナル・セッションから前号までの分を含め、以上5 題をレポートした。
 毎年の報告でも書いているように、このセッションの中には、米国50州のそれぞれの州がPCOに聴講を義務付けているセッションがある。各州の農務省など、連邦州のEPAに相当する部門が、その州で営業するPCOの免許更新のために必修となる、最低限の知識を求めているからだ。
 PCO協会(NPMA)と連邦EPAおよび各州の農務省などが、協働してPCOの知識技術向上と、それを基にした社会的認知向上を
はかる図式が見える。加えて、国の研究機関や大学がこの方向に呼応して、PCO産業育成に当たることも大きい。また、これらの関係を、機器や薬剤のメーカーが助成する状況も好ましい。

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