鵬図商事株式会社 奥村 敏夫
Ⅱ.飼育方法;床材の検討
オオムカデ目の飼育方法については秋山(2001)と田辺(2001)がそれぞれの経験に基づく手法を著書で紹介しているが、いずれもピートモスやバーミキュライトなど繊維状もしくは粒状の素材を床材としているため糞の清掃が難しく、寄生ダニが発生する場合があり衛生上の問題が残されている。床材の選択や配合にはまだ開拓の余地がある(田辺,2001)。
そこで床材について独自に検討した結果、ムカデは自ら水容器から直接水を飲むことができるため飼育ケージ内を必ずしも保水性の高い素材で覆う必要が無く、また、複数個体の飼育を想定した場合の床材交換の簡便さを考慮すると、床材は繊維状や粒状ではなく面状の方が作業性に優れていると考えた。
【 材料および方法 】
① 飼育対象;トビズムカデ Scolopendra subspinipesmutilans L. Koch、5頭
② 採集地;大阪府箕面市森町北 森林内(オオタカ保護区域)
③ 飼育期間;2011年5月23日~6月13日
④ 飼育容器;クリアポット(㈱セリア製、Φ110×H120、スクリュー式の蓋付)
⑤ シェルターおよび床材;ティシュペーパー エルモア200(カミ商事㈱製、容器床面に2枚(1組)を湿らせて敷いた)
⑥ 餌台;市販のペットボトルの蓋、1個
⑦ 水容器;市販のペットボトルの蓋、1個
⑧ 飼育環境;24~27℃(室温)、60~80%R. H.
⑨ 飼育場所;大阪府箕面市森町、鉄骨住宅、2階、北側居室内
⑩ 餌;リンゴ(品種は問わず外皮を剥いて約1cm角に切って給餌した) うす塩フィッシュソーセージ(丸大食品㈱製、5mm角に切ったものを1個投入して給餌した)
【 結果および考察 】
予備的に5頭をポリプロピレン製の飼育容器(Φ110×H120)にそれぞれ単独で収容し、容器の底に適度に湿らせたティシュペーパーを敷いて様子を見た。水容器および餌台としてペットボトルの蓋をそれぞれ利用した。餌はリンゴと魚肉ソーセージを2日に1回の頻度で交換し、同時に床材と水も新しいものに取り換えた。その結果、特に問題無く3週間を経過することができた。この間、他の個体は田辺(2001)の飼育法を参考に、床材にバーミキュライトを使用して単独飼育した。
床材にティシュペーパーを利用した場合、面状であることからピンセット一つまみで撤去でき、容器の内壁に付着した糞や餌の食べ残しなど汚れも一度に拭き取ることができたため、床材交換と清掃作業を同時かつ簡便に終わらせることができた。また、ムカデを収容したまま作業できた。これは特筆すべき有益性である。バーミキュライトでは糞の確認と除去に時間を要し、床材の交換時にはムカデを一時的に別の容器に移す必要があった。以上により、床材はティシュペーパーを利用するのが最も効率的であると考えられた。
Ⅲ.飼育方法;複数飼育の検討
今回の飼育対象はオオムカデ目に属する2種、トビズムカデ Scolopendra subspinipesmutilans L. Kochとアオズムカデ Scolopendrasubspinipes japonica L. Kochであるが、秋山(2001)と田辺(2001)はいずれも1容器あたり1頭の単独飼育を推奨している。同じケージに複数飼育すると、よほど広いケージではない限り、共食いする可能性が高い(秋山,2001)。仮に成体の雌雄がそろったとしても、同じ容器に入れた状態で共食いが起こりかねない(田辺,2001)。これはオオムカデ目の捕食性の高さが根拠と考えられるが、実験材料として飼育する場合、例えば殺虫剤1成分の基礎効力試験を行う場合など少なくとも10頭3反復、無処理区を含めて計60頭を必要とする。実際には数段階の試験区と数種類の試験項目により百数十頭から数百頭の安定的な確保が不可欠となる。このことから単独飼育では先に述べた床材の管理から餌、水の交換まで労力が掛かり過ぎてしまい、また、それに伴うコストも無視できなくなる。そこで、複数飼育を実現すべく独自に打開策を検討した。
【材料および方法】
① 飼育対象;トビズムカデ Scolopendra subspinipes mutilans L. Kochおよび、アオズムカデ Scolopendra subspinipes japonica L. Koch
② 生育齢;トビズムカデ;体長50~70mmの個体5頭、100~140mmの成体10頭 アオズムカデ;体長50~70mmの個体4頭、100mm前後の成体16頭
③ 採集地;大阪府箕面市森町北 森林内(オオタカ保護区域)
④ 複数飼育ケージ;ワイドビュークリアカラー大(㈱マルカン製、W375×D224×H235、床面積560cm2)
⑤ シェルター;ウェットシェルターS(㈱スドー製、W90×D72×H60)2個
⑥ 餌台;コースター ミニプレート(㈱ホリコシ製、W85×D85×H18、深さ8mm)1個
⑦ 水容器;レプティボウルS(㈱スドー製、W100×D100×H25)1個 水は浄水を使用し、7日毎に交換
⑧ 床材;ティシュペーパー エルモア200(カミ商事㈱製、ケージ床面に8枚(4組)、シェルター内床材として8枚(4組)、保湿用として4枚(2組))
⑨ 管理環境;24~27℃(室温)、60~80% R.H.
⑩ 飼育期間;2011年6月14日~6月21日
⑪ 飼育場所;大阪府箕面市森町、鉄骨住宅、2階、北側居室内
⑫ 餌;リンゴ (品種は問わず外皮を剥いて約1cm角に切って2日毎に交換) うす塩フィッシュソーセージ(丸大食品㈱
製、5mm角に切ったものを10個投入し、2日毎に交換)
きび砂糖(日新製糖㈱製 0.5gを2mlの浄水で溶かし、無くなり次第追加)
【結果および考察】
トビズムカデとアオズムカデを同じケージで飼育した時、飼育開始からわずか3日でアオズムカデ幼体が1頭、翌日、同成体1頭がトビズムカデに食されているのを確認した。その後、体長が同等の個体同士に分けて収容したが、再びアオズムカデ成体1頭が致死したことから種を分けて飼育することにした。その際、個体間の大きさは問わず、幼体と成体を同じケージに収容した。
その結果、大小様々な個体が混在する環境下にもかかわらず、共食いにより致死する個体も無く、餌が摂れず衰弱する個体も無く無事に飼育することができた。これによりオオムカデ目の複数飼育は可能であるものと考えられた。
Ⅳ.飼育方法;飼育数の検討
6月30日現在、トビズムカデ14頭、アオズムカデ17頭を種ごとに床面積560cm2のケージで飼育しているが、衛生環境を維持することを考慮するとこのケージではトビズムカデなら成体15頭、アオズムカデなら成体20頭が限界であるように思われた。
そこで上記の飼育数を基準に、例えば供試虫として150頭を維持することを考えた場合のケージについて検討した結果、適度な大きさで扱い易いものを見つけたので以下に報告する。
収納ケース;LIFELEXクリアコンテナL 浅型(コーナン商事㈱製、W361(W310)×D518(D460)×H184、床面積1,426cm2)
※( )は内径
上記の収納ケースを複数飼育ケージとして使用する場合、トビズムカデなら4箱、アオズムカデなら3箱あればよく、非常に狭いスペースで効率的に成体の大量飼育が実現できるものと思われた
なお、複数飼育ケージにムカデを収容する際にはコツがあり、あらかじめ底面に湿らせたティシュペーパーを敷いたポリプロピレン樹脂製容器(Φ110mm×H120mm)に単独で収容した後、充分に落ち着かせてからケージ内へ床材ごと滑らせて移すのが良い。容器内で走り回っている個体をそのままケージへ投入すると暴れた勢いのまま他の個体と咬み合い、どちらかが負傷するかそのまま共食いに進展するため段階を踏む方が無難である。以上、いくらかばかりでも参考になれば幸いである。
参考文献;
1) 石井象二郎ら,1969,特集;昆虫の人工飼育と栄養,「植物防疫 第23巻 第8号」㈶日本植物防疫協会,pp. 1~38.
2) 湯嶋健ら,昆虫の飼育法,㈶日本植物防疫協会,1991
3) 秋山智隆,毒虫の飼育・繁殖マニュアル,㈱データハウス,2001
4) 田辺力,多足類読本 ─ムカデとヤスデの生物学─,東海大学出版会,2001
5) 野口玉雄ら,学研の大図鑑「危険・有毒生物」,㈱学研ホールディングス,2003
6) 羽根田治,野外毒本 ─被害実例から知る日本の危険生物─,㈱山と渓谷社,2004