3.屋内繁殖害虫対策(清掃への対応 その1)
元(株)竹中工務店 エンジニアリング本部 稲岡 徹
Ⅰ.はじめに
今回は屋内繁殖害虫対策の2 回目として清掃の問題を取り上げます。建設業者が清掃について語るというと、怪訝に思われる方がいるかもしれません。清掃自体に関してなら、PCOや食品関連企業等の従業員の方が、高い意識と技能を持っておられるからです。それでは、建設業者の役割とは何でしょうか。それは、ずばり清掃しやすい建物の提供です。以下に、食品工場を例に上げて建物と清掃の関係を考えてみましょう。
Ⅱ.清掃しやすい建物とは
工場内では、生産活動が休みなく続けられています。そのため常に塵埃が舞い上がり、特に穀粉など粉状の材料を使っていると、その量は極端に多くなり、所かまわず降り積もり、害虫の餌場や隠れ場所となってしまいます。生産活動がある以上、塵埃の舞い上がりは、集塵機などで軽減はできても、ゼロにすることはできません。したがって、これらの塵埃が降り積もる場所は容易に清掃ができなければなりません。具体的に言うと、塵埃はなるべく低い位置、理想を言えば、最も清掃し易い床にすべてが溜まる構造になっているのがベストです。
Ⅲ.天井と内壁の設置
高い場所に溜まった粉や埃は容易には除去できません。人の目に触れ難い上、清掃作業もやり難いからです。天井が張られていない部屋であれば梁、照明、ダクト、パイプ等の頭上構造物が剥き出しとなります(写真1 )。
これらには舞い上がった埃や粉が降り積もり、害虫の温床となりがちです。さらに、虫が発生しなくても、頭上構造物の直下はしばしば原料や製品が通過する生産ラインとなっており、ダクトやパイプ表面に付着した汚物や塗料の剥がれ、水滴等が落下すると、食品では最も恐ろしい微生物汚染にもなりかねません。
このような問題を回避するために、また美観も考慮して、建設業者は天井を張ります(写真2 )。
ダクトやパイプは天井裏に隠れ、部屋内とは隔離されます。照明は吊り下げないで埋め込みや直付けを採用し、照明具に塵埃が降り積もるのを防ぎます。さらに写真2 では、下辺の窓枠に傾斜が付けてありますが、これも埃や粉が溜まり難くする工夫の一つです。
屋根や天井を支える壁も害虫の発生場所として無視できません。外壁の内側には建物の強度を保つため多くのH形鋼や桟が走り凹凸の多い形状ですが、ここが粉溜まりとなって害虫に繁殖場所を提供するからです。これを防ぐため、および美観のため建設業者は内壁を張って、外壁の内側を平滑な材質の内装材で覆います。これは屋根の下側に天井を張るのと類似の行為ですが、ここに新たな問題が生じます。それは天井裏、壁裏という閉鎖的な環境が生じることです。
一般的には、天井裏、壁裏とも日常的な清掃の対象からは外されます。それは室内からの塵埃などの侵入は非常に少ない筈だという前提があるからですが、清掃ができないことを嫌って、天井や内壁の設置を極力抑制することを選ぶ食品工場もあります。清掃の仕方については、私達建設業者が口を出す場面ではないのですが、現実的には屋根から吊り下げられた複雑な配管・ダクトや、壁面の多数の桟を常に清潔に保つのは至難であり、建設業者としては天井・内壁を設置し、上述の清掃困難な構造物は、なるべくその裏側に収納することをお勧めします。ただし、天井裏・壁裏ともに点検口を設け、害虫のモニタリング等内部の状況を常時監視する必要があります。
天井裏、壁裏に多発する厄介な害虫として、食菌性の微小昆虫チャタテムシやヒメマキムシがあります。これらの害虫が室内に這い出したり落下したりしないよう、高度の清潔度を要求される部屋では図1 に示したように、天井の照明具・換気口の周囲、壁に付けられた操作盤、コンセントに至るまで徹底したシールによって室内との隔離を図ります。 今回は、天井と壁について説明するだけで終わってしまいました。次回は本命である床と、その清掃の問題点を中心に解説します。