PMPのための微生物制御と ビジネス化のヒント(6)

生物医学研究所・PCJ研究会 代表 青木 皐

滅菌?消毒?殺菌?抗菌?除菌?

 微生物を制御する言葉はいろいろ使われています。報告書に書くとき、どの表現にすればいいのかという相談を受けます。特に決まっていることではありませんが、病院関連では「消毒」食品関連では「殺菌」と表現されることが多いです。また、消毒薬・消毒剤・殺菌剤など、同じ働きをする薬剤についての表現もいろいろです。
 まず言葉の定義を見ましょう。「滅菌」「消毒」という言葉は局方に規定されていますが、「抗菌」「除菌」という言葉に規定はありません。滅菌とは、すべての微生物を殺すか(殺菌)除去することです。生きた細胞が存在しないことをいいます。菌の死体はあっても良いのです。ところが注射薬など体内に入るものに菌の死体があると発熱源になるのでこれも除去するのがフィルターによる「菌捕集」です。この技術はビール製造にも使われています。ビールはコウボにより発酵させていますが出荷時には殺菌しなければいけません。これまでは加熱によりコウボを殺していました。(この方法ではコウボの死体がビールに残ります)生ビールは、フィルターでコウボそのものを除去するので加熱の必要がありません。この方法ではコウボはすべて除去されているのでコウボの死体はありません。(だから喉ごしがいい!)
 環境微生物制御での「滅菌」処理は、特殊な無菌室を除いてほとんど不可能です。環境で可能な微生物制御は「消毒」です。消毒の定義は、滅菌と違い生きた菌が残存していても良いのです。残存している菌が大きな影響を与えない程度に菌を制御 (殺菌)することをいいます。例えば調理前の「手指消毒」では、手の表面を滅菌状態にするのではなく、影響を与えない程度に菌を減らすと言うことになります。
 滅菌や消毒するため菌を殺すことを「殺菌」といい、ここにはどれだけ殺すかという意味はなく殺すか殺さないかということを衷す言葉です。抗菌や除菌という言葉は局方に規定されておらず。どれだけ菌を除いたか?どれだけ菌が増えないかは法的に規定されていません。 しかし、常識的には、100個の菌に薬を作用させたら7個死にましたから殺菌効果があったとは理解しません。一般的に2桁のオーダー、1000000個から10000個、10000個から100個に減少させてはじめて殺菌効果(消毒)があったと表現されています。

殺菌方法

 人類の歴史で最も早く取り入れられた殺菌は「火炎」だといわれています。微生物実験などで使用する白金耳の殺菌は今でも火炎滅菌という方法を使用しています。また、トリインフルエンザ感染鶏なども焼却といういわば火炎滅菌しています。
殺菌には大きく分けて温殺菌と冷殺菌があります。火炎滅菌は温殺菌で、高温の乾熱や湿熱(オートクレーブ)滅菌も温殺菌です。これらの方法は環境殺菌には適しておらず、我々が実施する殺菌方法は薬剤による冷殺菌が最もポピュラーです。冷殺菌には、薬剤以外にもUV(紫外線)殺菌、EOガス殺菌、オゾンガス殺菌などがあります。
  UV殺菌はUV灯の照射で殺菌します。食品工場などの天井に配置されているのは、空中に浮遊している微生物を殺菌しています。また、理髪店などではハサミなどの器具を殺菌しているところもあります。術前の手術室の殺菌にも大型のUV殺菌機を持ち込んですることもありましたがPMPの環境殺菌方法として採用することは困難です。EOガス・オゾン殺菌も特別の装置や知識が必要です。特別な装置でしかできない殺菌方法としてはア線殺菌があります。農産物のジャガイモの発芽防止として使われたり、透析のダイアライザーや注射筒殺菌に使われたりします。
 我々が環境品質マネジメントとして殺菌処理するには薬剤を用いることが多くなります。薬剤は、消毒薬あるいは消毒剤・殺菌剤という様々な呼称があります。消毒薬は医薬品として局方で認められているものです。消毒剤・殺菌剤はそれに準じた薬剤です。先にもいいましたが病院関連では消毒薬・消毒剤と表現し食品関連では殺菌剤と言うことが多いようです。
 環境微生物制御で使用できる薬剤はいろいろありますが、制御対象が真菌か細菌か、あるいはウイルスかを明僅にして、それぞれの微生物に効果のある薬剤を選定せねばなりません。(詳しくは誌面が足らないので薬剤メーカーのパンフレット、文献を参照下さい)そして重要なのは「濃度」です。 PCO薬剤と違い使用濃度は2桁以上うすい濃度が求められることがあります。75%の原液で0.001%希釈液を15リットル精製するということが起きます。きちんとした計量カップやメスシリンダーが不可欠です。

殺菌処理作業

 環境品質マネジメントとして殺菌処理をする業務は、病院の院内感染防止対策、食品工場の食中毒防止対策などニーズは高まりつつあります。これらの作業ニーズが発生したとき大切なのは①対象微生物の確認②使用薬剤の決定③使用薬剤の濃度決定④薬剤処理方法の決定です。 
薬剤の種類・濃度・処理方法を間違うと殺菌効果がない場合があります。病院など常時薬剤を使用していると微生物に「薬剤耐性」がついていることがあります。これを知るには「薬剤耐性試験」を事前にすることが必要です。薬剤の種類と供に濃度も同時に検査します。処理方法は、環境(天井・壁・床)に対し薬剤を作用することですが、一般にスプレーで噴霧することを考えがちですが、噴霧は殺菌効果が低く現在はこの方法は認められていません(CDC)。認められているのは「清拭」方法です。ワイプクロスに薬剤を含浸させそれで丁寧に拭いてゆきます。このとき大切なことは塗布された薬剤がどれくらい乾かずに付着しているかです。清拭後すぐに乾燥状態になると殺菌効果は半減します。しかし床などがいつまでも濡れていると部屋が使用できず困ります。薬剤と微生物の接触時間は大切な殺菌要素です。普通、薬剤耐性試験などで殺菌効果を確認するとき、最低30秒~120秒接触させて効果を調べます。この接触時間のなかで最適な濃度を決定するのでせめてこの時間ぐらいは乾かない量だけ塗布する必要があります。
 もうひとつの条件として温度があります。環境温度が高いと早く乾燥しますので気をつけてください。ところが薬液は温度が高い方が低い方より殺菌力が高くなります。薬剤を希釈するときの水温は、冬と夏では全く違います。同じ薬剤条件で殺菌処理しても、夏は効果があったが冬は効果が低かったということは多々見られました。冬はせめて夏と同じくらいの水温にあげて希釈することが大切です。消毒薬の多くは有機物により失効することがあります。機材は専用にして、清潔に管理してください。

まとめ

 微生物は見えません。見えない対象を見えるように表現して、それを制御しましたと確認して頂くのが微生物制御の仕事です。見えない微生物を見えるようにするには培養などの方法があり、具体的に菌の姿を見て頂くことも、勿論見えるようにすることですが、大切なのは、その微生物制御の必然をきちんとプレゼンテーションすることこそが「見えるようにする」ことです。
 ノロウイルス感染、インフルエンザ感染など微生物による問題が深刻になりつつあります。微生物制御もPMPのビジネスと捉えてマーケティングし、確かな商品として確立したいものです。

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