鵬図商事株式会社 足立雅也
わが国でULV処理が、屋内環境衛生に導入されたのは1976年(昭和51年)でした。(鵬図商事HP PMPニュース アーカイブ創刊号http://www.hohto.co.jp/pmpnews/001-4/)それから6年後の1982年(昭和57年)8月に、林晃史博士(農・医)を会長に日本ULV研究会が発足され、数々の研究と啓蒙を行いました。その結果、昭和55年の防除業者へのアンケート調査によると、ULVを行うための噴霧機は業者1社当り0台の保有数でしたが、昭和61年には5.4台になりました。この功績は、現在の防除技術の礎にもなっているといっても過言ではありません。
さて、害虫防除の思想や技術的対応は、その時代の社会的背景に影響されます。昨今、世間の化学物質に対する意識は強まり、いくら低濃度であったとしても屋内に殺虫剤を多量に散布することは敬遠されがちな時代になりました。では、殺虫剤を使用して殺虫効率を上げるにはどうすればよいか。
まず、高濃度の薬液を虫に接触させるさせることです。そして、虫への薬液の接触の機会を増やすことです。この2つの条件を満たすものがULV処理です。ULVは、Ultra Low Volumeの略で、高濃度少量散布と解されます。ULV処理に適した噴霧機で、承認を得た医薬品殺虫剤の「ULV乳剤」を空間に噴霧し、虫に空気中を漂う殺虫剤粒子を効率よく付着させて死に至らしめる技術です。
では、ULV処理に用いる薬剤は、高濃度であればどんな成分や剤型でもよいのかといえばそうではありません。人体に対する安全性からピレスロイド系のような温血動物に安全性の高い薬剤に限られます。「ULV乳剤」は、有効成分がフェノトリンとペルメトリンの2種類があります。これらの薬剤を少量の散布で虫に効率よく接触させるには、5~20ミクロンの粒子径の薬液が最適です。効果を最大限に得るためには、この最適粒子径を90%以上噴霧できる、ULV専用噴霧機を使うことが条件です。
最適な粒子径は長時間空気中に浮遊するので、飛翔昆虫に対して致死に十分な接触が得られます。また、複雑で入り組んでいる隙間にでも薬剤粒子が流れてゆき、匍匐昆虫の追い出し効果が得られます。追い出し効果により、強制的に残留噴霧処理面に接触させ、あるいはベイトにありつけるまでの時間を短縮させることで早いうちに効果をもたらすことができます。このように他の処理方法と組み合わせることで、相乗効果が得られます。
ULV処理は必要最少量の殺虫剤量をもって、最小の環境への影響で最大の有害昆虫防除効果を発揮するという、薬剤、噴霧機、施工方法を規格したプロが扱う総合技術です。
ULV乳剤を使用した上手なULV処理のポイントを示しておきます。
- 噴霧機の選択は適切に:本製剤はULV専用の殺虫剤ですから、高濃度少量散布に適したULV機を選びましょう。
- 施用場所に応じた用法容量で:例えば、狭い場所は2倍ないし4倍希釈で噴霧量を多く、広い場所には原液ないし2倍希釈液を噴霧します。
- 施用前の処置:戸棚、引出しなどを解放し、薬液が害虫の生息場所に到達しやすいようにします。また、換気扇は切り、窓や扉の隙間はできるだけ少なくして密閉度を高めます。
- 施用は順序よく:屋内の奥から入口に向って順次行い、できるだけ薬液に暴露しないようにします。
- 噴霧は害虫の生息場所めがけて:害虫の隠れ場所めがけて噴霧します。例えば、ゴキブリの潜み場所に噴霧すると、多数のゴキブリが飛び出してきてノックダウンしますが、壁面をはい上がり天井に移動するものも見られますので、あらかじめ壁面に残留噴霧をしておくと有効です。
- 施用後の処置も大切:噴霧後4~6時間、できれば一夜密閉すると効果は一段と確実になります。
- 使用上の注意を守る:ラベルの注意事項をよく読んでご使用ください。
参考文献
林 晃史:ULV研究 第1号、日本ULV研究会発行 1982年
林 晃史:ULV研究 第2号、日本ULV研究会発行 1984年
林 晃史:ULV研究 第3号、日本ULV研究会発行 1985年
林 晃史:ULV研究 第4号、日本ULV研究会発行 1986年
林 晃史:ULV研究 第5号、日本ULV研究会発行 1988年
林 晃史:ULV研究 第6号、日本ULV研究会発行 1989年
林 晃史:ULV研究 第7号、日本ULV研究会発行 1991年
林 晃史:ULV研究 第8号、日本ULV研究会発行 1992年
林 晃史:ULV研究 第9号、日本ULV研究会発行 1992年
林 晃史:ULV研究 第10号、日本ULV研究会発行 1993年