有機リン系殺虫剤の安全性が、また問われることになるかもしれない。米ハーバード大やカナダのモントリオール大などからなる研究チームが、この種の薬剤をごく低濃度でも摂取した子供は「注意欠陥・多動性障害」(ADHD; Attention-Deficit/HyperactivityDisorder)になりやすいとの研究結果を、米国小児科学会誌“Pediatrics”に発表した。
究チームは米国の8歳から15歳の子供1139人の尿中に排泄された有機リン系殺虫剤の代謝物を測定し、親と面談してADHDの診断基準に合うかを調べた。その結果、代謝物のなかでもジメチルアルキルフォスフェートが多く検出されるほどADHDである疑いが濃く、検出限界程度の濃度でも、検出されなかった子供にくらべるとほぼ2倍(1.93)だった。ADHDは原因のすべてが解明されていないが、これまでは遺伝的な要素が指摘されていた。
殺虫剤などの化学物質はそのときどきの科学レベルで再評価される。アメリカでは殺虫剤等を一元管理するEPA(環境保護庁)が、FIFRA(連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法)とFQPA(食品品質保護法)に照らして、有機リン剤とカーバメート剤の再評価を終わらせたばかりだ。しかしこの研究結果により、新たな評価が必要になるのかも知れない。
PCO産業先進国のアメリカですら、農薬に比べて需要が小さい防疫用殺虫剤は、新製品開発が遅れがちという。さらに市場が狭隘な我が国ではなおさらだ。誤った用法用量などで現有殺虫剤の使用規制を招くなどはしたくない。幼小児が摂取する危険性のあるような環境での使用を避けるなどを、今回の研究は示唆している。 (龍)