もっと知りたいIPM☆・16 トコジラミの再興とその防除

ジャック・ドラゴン(Contributor)

 トコジラミのリサージェンス(再興)が日本でも見られるようになりました。すでに数年前から世界中で問題になっている害虫なのですが、とくにアメリカでは、その被害が国中に拡がっているかのように見えます。
 被害が本格化した2006年当時、ニューヨークタイムズは「大方の場合、噛まれたあとのむずがゆい腫れに、発疹かそれとも何かのアレルギーを疑い、ついには医者に行き、家主や管理人、それに害虫防除業者に電話するという次の段階に至るのです」と書いています(http://www.nytimes.com/2006/10/15/realestate/15cov.html?_r=1)。
 大騒ぎの原因は、アメリカが訴訟社会であることや、テレビ、新聞などのマスコミが過剰に反応しがちなことにもあると言われます。高級ホテルの宿泊者が刺咬被害に会い、ホテルに超高額の慰謝料を請求したという例もあるようです。そのようなことから、トコジラミの防除依頼を受ける際は、施主側に『駆除完了』の言質をとられないように、とPMPに指導するコンサルタントも多いと聞いています。
 殺虫剤の安全性に厳しい米国では、EPA(環境保護庁)の再評価に耐えて、屋内で使用できる殺虫剤にはピレスロイドくらいしか残っていません。 ところが、問題のトコジラミには、半世紀ほど前にDDTに抵抗性を発達させた系統の子孫が含まれているらしいのです。ピレスロイドとDDTは作用点が同じなので、そのようなトコジラミにはピレスロイドがあまり効かないのです。では、PMPはこの問題にどう対処しているのでしょうか。

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■ アメリカでトコジラミが再興した理由

 NPMA(全米ペストマネジメント協会)のハインゾーンさんは、アメリカでトコジラミが再興した理由を、同協会2006年々次大会で次のように分析しました。
① 世界的な人の移動;トコジラミの卵や成・幼虫を衣服や荷物につけたまま移動している。
② 有機リンやカーバメートの使用規制;FQPA(食品品質保護法)に基づく殺虫剤の再評価により、人が常時利用する場所への適用が制限された。
③ ベイト剤の普及;安全性の観点からゴキブリやアリの防除にベイト剤が主流になった。ベイト剤開発以前は室内に有機リン剤等の液剤を散布していたので、標的昆虫ではなかったトコジラミをも、それと気づかぬうちに駆除していたのです。
④ トコジラミを知らない世代が増えている。 
⑤ イラク、アフガン派兵;アフガンに01年から、イラクには03年から派兵が始まり、その帰還兵による現地からの持ち帰りも指摘されている。 
⑥ 中古家具やレンタル家具が普及し、成虫や卵がそれらに付いて広がっている。 
⑦メディアの過剰な反応 
彼女がまとめた7 つの理由は、いまでは各種のトコジラミの防除マニュアルなどに引用される定説になっています。

■ ■ トコジラミのインスペクションとモニタリング用具

 トコジラミをその発生初期に発見するのはかなり困難なことです。そのため、PMPは顧客が実際に被害に会い、それも相当に広がってからの出動となります。したがって、インスペクションやモニタリング用の器具類はほとんどの場合、おそらくトコジラミによる被害があるとわかったあとで使われるのが実情です。
 BB ALERT(アラート)Ⓡにはアクティブとパッシーブがあります。アクティブはトコジラミを人の体温でおびき寄せようと考えられました。37℃前後に発熱する携帯カイロ様の袋と粘着紙を組合せて使います。パッシーブは防除作業後のモニタリング用で、発熱剤を使いません。Catchmaster(キャッチマスター)Ⓡ BDSはスイッチボックスの中などに仕掛ける粘着紙です。

電熱による人の体温ほどの温度と徐放的にCO₂を放出する炭酸ガスボンベ(30~60mL)を組合せたNight(ナイト) Watch(ウオッチ)ⓇやCIMEX(サイメックス)Ⓡもよく使われています。

 ClimbUP(クライムアップ)Ⓡはベッドの脚が床面に接触する部分に敷く、凹型をしたプラスチック皿です。皿の表面にベビーパウダーをごく薄く刷いて、いったん這い登り(またはベッドから這い降りて)凹面に落下したトコジラミが再び這い出せないようにします。

 訓練した犬(sniff (スニフ) dog(ドッグ)、探索犬)を貸し出して、トコジラミの隠れ場所を探させる業者もいます。主としてレトリバー種やビーグル種が用いられ、生息密度が低い場合でも嗅ぎ当てるのですが、トコジラミの脱皮殻や血糞にも反応してしまうという欠点もあります。顧客に一般家庭が多いアメリカのPMPには、犬を使うという、プロフェッショナルらしさも必要なのです。

■ 物理的な防除機器

 PMPたちはいわゆるグリーンな防除を心がけ、化学薬品の使用に敏感な消費者層を顧客に取り入れようとしています。NPMAもPMP向けにグリーンビジネスの展開を指導してきました。そのようなわけで、トコジラミ防除にも化学品に頼らない各種の機械的・物理的防除技術が開発されています。
 PROTECT(プロテクト)・A(ア)・BED(ベッド)Ⓡはベッド・マットをくるみ込むケーシング材です。メッシュの細かい特殊織りの布を加工したベッド・カバーです。トコジラミの1 齢幼虫でもその織目を通過できないばかりでなく、このカバー越しに人を刺咬することもできないように加工されています。ベッドへ着脱の際に使用するジッパーにも同様の工夫があります(図5 )。
 ATRIX( アトリックス)ⓇINTERNATIONAL(インターナショナル)のバキューマーには各種のアタッチメントがそろっていますから、隙間や壁面の割れ目ごとに取り替えて使えば、内に潜むトコジラミを強力に吸引除去することができるのです(図6 )。
 サーマルトリートメントは熱を利用する防除法です。低温を利用するCRYONITE(クライオナイト)Ⓡは液化炭酸をC&Cに吹き込んでトコジラミを凍死させます。一方、高温を利用するスチ-マーとしてPMPが信頼を置く機器がKÄRCHER(ケルヒャー)Ⓡです。各種のアタッチメントも揃い、高温・高圧の水蒸気を吹き込むことで、即効的な防除が期待できます。
 より大掛かりな機器の代表例としてTEMPAIR(テンプエア)Ⓡが知られています。ホテルの部屋や一般的なオフィスのような比較的広い室で使われます。室内のエアコン吹き出し口や火災報知器などを養生してから熱風を吹き込みます。パソコンで温度を管理しながら、約60℃で2 時間密閉(室内環境温度は約43℃)すると、卵まで殺すことができます。
 薬剤だけに頼らないトコジラミのIPMについて、アメリカのPMP業者がどれだけ苦心しているかお分かりいただけたでしょうか。日本ではまだこれから需要が大きくなるトコジラミ市場です。化学防除と機械的・物理的な防除の組合せをお考えください。

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