鵬図商事株式会社 服部雄二
トコジラミ駆除ツールの主役として、10年程前から米国で広く利用されてきたスチーマーが日本で利用され始めている。鵬図商事でも今春から業務用スチーマーの取扱いを開始したが、予想を上回る販売ペース。トコジラミを駆除するツールとして、スチーマーが注目されている背景には、3 つの要因が考えられる。
1 被害報告の急増
日本でもトコジラミによる被害が急増している。あるホテルチェーンでは、昨年まで累計で3件の被害報告しかなかったのが、今年は8 月までで既に20件以上の被害報告が出ている。また、トコジラミに力を入れて取組んでいるPCOでは、トコジラミの施工売上が半期で昨年の2 倍を超えている。
2 薬剤があまり効かない
一部のトコジラミ駆除薬剤に抵抗性の疑いがある。また、ほとんどの薬剤は卵に効かない。その点、スチーマーは薬剤耐性のある成虫にはもちろん、卵を含む全ての成長段階に殺効果を発揮する。
3 スチーマーは水を利用する
薬剤を使用しないので、環境への影響と健康被害の心配が無い。高温の水蒸気を吐出するだけなので、トコジラミが潜む可能性の高いマットレス、布団、クッション、ぬいぐるみや洋服などに臭いもつかず安心して使える。
とは言え、スチーマーが万能というわけではない。トコジラミ施工現場でスチーマーを実際に使ってみると、以下のような課題も浮かび上がってきた。
1 施工時間が長くなる
スチーマーのノズルを移動させるべき速度は、蒸気をあてる場所によっても違うが、毎秒1 cm~2 cmぐらいが妥当。この速度で部屋の隅々までくまなく施工するにはかなりの根気と時間がかかる。施工対象家具の大きさや構造などによっても作業時間は異なるが、経験上、15㎡程度の洋室で2 時間、12畳程の和室では3 時間以上かかる。
2 電気製品に使えない
電気製品やコンセント裏にトコジラミが潜んだり、卵が産み付けられたりする可能性もあるが、ショートや故障の原因になるのでスチーマーは利用できない。
3 汚れムラができる
蒸気を当てた部分だけ、汚れが落ちてしまうため、壁や柱に汚れのムラができてしまうことがある。
4 作業者の技術、経験により、施工結果が大きく異なる
トコジラミの潜伏場所がわかるようになるには、ある程度の現場経験も必要。そのため、作業者が代わると施工結果が大きく異なるので、提供するサービスの品質管理が難しい。
5 使用するスチーマーの種類により結果が大きく異なる
スチーマーには色々な種類があるが、ここではケルヒャー社の業務用スチーマー(DE4002 プラス)と同社の家庭用スチーマー(SC1002)を比較する。
①スチームの吐出力の調整・・・DE4002プラスはスチームの吐出力を調整できるが、SC1002には調整機能がない。そのため、SC1002のノズルをトコジラミに向けると、勢いが強すぎて致死の前に虫体が吹き飛んでしまう。
②連続使用時間・・・SC1002のボイラータンクは0.8Lで、25分程度でタンクが空になる。再び水を入れ、ヒートアップするまで5分以上待たなければならない。DE4002プラスのボイラータンクは2.4Lであるが、サブタンク2.2Lが並列されている。一度ヒートアップしてしまえば、サブタンクからボイラータンクへ自動的に水が補給されるので、中断することなく連続作業が可能だ。
上述したスチーマーの利点と限界を理解し、薬剤を併用してトコジラミを駆除するのが現在のところ最善処置と考えられる。また、トコジラミを正しく施工するには作業時間がかかることをお客様には事前に説明し、それに見合った料金がかかることをご納得いただくことも重要と思われる。