はじめに
昨今、著しく環境保全と安全性への関心が高まりを見せているなか欧米では日本に先駆けて殺虫剤成分を含まない駆除剤なるものが普及しつつある。この流れを受けてか日本においても食品業界が加工工場に殺虫剤を禁止する動きが広がっている。
そこで、泡施工をする際に助剤として添加する起泡剤を用いた、界面活性剤の気門封鎖作用によるムカデ駆除の可否について検証し、レスケミカル施工の実用性について考察した。
ムカデが問題となるのはその毒牙による刺咬被害であり、一般住宅が対象として想定される。住環境においてムカデが潜む場所は様々であるが、比較的多いのは植栽の落葉下、石垣の中などである。駆除の現場においてその場でムカデの姿を確認し、起泡剤なり殺虫剤を直接暴露させることは極めて困難である。施工対象となる住宅周囲のムカデが潜んでいそうな場所にアタリをつけ、適当に散布、注入せざるを得ない。
これを踏まえ実証試験ではケージ内に散布液を吸収する土のほか障害物となるシェルターと落ち葉を配置し、意図的にムカデが散布液に直接暴露しない環境を整えた。試験区は2つ設け一方は起泡剤の泡がシェルターと落ち葉を完全に覆う程度に、もう一方は泡が表面のみ覆う程度に処理し、処理量の違いによる影響について検討した。
まず、土、シェルター、落ち葉の順にケージ内を適当にレイアウトし、ムカデを5頭放逐したあと10分間静置した。ムカデが好みの場所を見つけて落ち着くまで待機した。同時にジャックプラスに起泡剤50倍希釈液を3L調整し充填。B&Gスプレーヤーの液剤散布基準を参考に15回+10回の計25回ストローク圧縮した。
ジャックプラスのホースはWET FOAMOUTPUTに接続し、ノズル噴口を地上60cmの高さからケージ内に向け、噴射と同時にタイマーのカウントを始めた。
【材料および方法】
供試虫;トビズムカデ 計10頭
生育齢;いずれも110mm以上の成体
採集地;大阪府箕面市森町北森林内(オオタカ保護区域のため薬剤暴露経験少ないものと推察する)
供試薬;Hohto-起泡剤(有効成分;アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム)希釈倍率;50倍希釈 (起泡剤20mL/水1L)
≪供試資材≫
噴霧器;エプシロン・ジャックプラス1ガロン (泡-仕様;Φ4mmチューブチップ+ハンドガン&ホース 1.6m)
ケージ;ワイドビュークリア大(㈱マルカン製,W432×D260×H305,内径面積560cm2)シェルター;ウェットシェルターS(HERPCRAFT製,W90×D72×H60) 3個使用
落ち葉;クヌギ等の落葉(適量,表土が見えなくなる程度)
土;真砂土2kg (粘土質多く含む)
タイマー;キッチンタイマーCORORO(ドリテック製)
試験区;①30秒間噴射:散布液量400mL/560cm2( 7.2L/m2) ②10秒間噴射;散布液量133mL/560cm2( 2.4L/m2)
供試時間;30分間,反復なし
管理環境;24℃(外気温),60~90% R. H.
【結 果】
起泡剤噴射後、直ちに経過を観察し、30秒間噴射(7.2L/m2)条件では、15秒程度でケージ内に潜んでいたムカデが飛び出して走り回り、3~10分後には5頭のいずれもが致死した。10秒間噴射(2.4L/m2)条件では、2頭が10分以内に致死したが、ケージ内に障害物として設置したシェルター内部に散布液が到達せず、潜んでいたムカデが無傷で生還した。供試した5頭のうち3頭がシェルターに守られた。
【考 察】
起泡剤希釈液の付着したムカデは蘇生することなく短時間に致死したことから、住環境において使用する際には想定される潜伏場所に十分量を散布、注入することが効果的と思われる。しかし、これまでの殺虫剤施工に比べ散布液量を多く必要とする。よって、ムカデを対象とした施工においては、駆除性能に優れた接触毒性や残効性の高い殺虫剤と組み合わせて相乗効果を狙うのが最も効率的であり、散布液量も軽減できることから、結果としてより安全性も高まるものと考える。また、界面活性剤の持つ高い親和性により殺虫剤成分の付着、浸透性も促進されるものと推察する。
殺虫剤の使用を禁止された現場においては、雑草除去など耕種的手法や防虫ブラシなど物理的手法と組み合わせて、総合防除の選択肢に含めても良いのではないだろうか。
ムカデの生態を熟知した上で、周辺環境に配慮しつつ局所重点施工ができれば、充分に実用性のある一防除手段であると考える。
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