エデュケーショナル・セッションから(1)

 さて、ここからは毎年70題ほど用意されるセッションのなかから、筆者が聴講したトコジラミに関するセッションのうち3題について、書こうと思う。
筆者はアメリカPCO業界誌のひとつであるPCT誌が行う調査「アメリカPMPトップ100」を観察し続けている。防除対象昆虫の推移では、90年代末にアリ需要がゴキブリを抜き去り、いまも1位であることに変わりない。しかしアリ防除が増えるにつれ、シロアリ施工の凋落が目立つようになった。この10年にわたってスウォームの減少が顕著になっているのだ。それに07年にはじけた住宅バブルが追い討ちをかけた。スウォームの減少が顧客減に繋がっているのではないかとPCOは気を揉む。そこに登場したのがトコジラミだ。では、果たしてトコジラミはPCO業界の救世主となるのだろうか。

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■トコジラミの卵の孵化率やモニタリング用具に及ぼす温度の影響:バーナード・ルイス(カリフォルニア大学バークレー校)

 トコジラミの総説から話が始まった。カリフォルニア州でも被害例が多く、この大学のウエブサイトには現時点で、3200万件以上ものアクセスを数えている。

1.トコジラミのバックグラウンド:トコジラミ再興の4つの原因

・世界旅行の大衆化
・薬剤抵抗性系統
・不確かなインスペクション
・お粗末なメンテナンス費用
99年の再興以降、いままで何人かの研究者らがその原因をさまざまに挙げ連ねたが、ルイスさんの説は、これらを上の4つに絞り込んだ点で目新しい。

2.トコジラミの卵はいつどのように孵化するか

「防除を確実にするために、最初の処理から1~2週後に再度処理すること」と一般のPCOは教えられている。卵の孵化する期間を1~2週と仮定したこのやり方は、果たして当を得たものなのだろうか。実際は気温に左右されることが多く、3週間とするほうが良いのではなかろうか。
このことに関して、NPMAはルイスさんの教室に卵の孵化条件の研究を委託した。
彼の実験プロトコールは次のようだ。同時期に産下されたそれぞれ50個の卵を、二つの条件下に保つ。一方は常に25℃に、他方は12時間14℃残り12時間を20℃にして、現在実験中という。「結論を出すまでにはもう少し時間が欲しい」

3.トコジラミは寄主をどのように見つけているか

この実験は当教室ポスト・グラデュエートのSuchyとLewisが行った。
一般に、トコジラミは人の呼気に含まれる炭酸ガスや、何か他の物質に加え、物理的な振動などを辿って引き寄せられていると考えられている。そこで、二人は実験用アリーナに絶食させたオス5頭を入れ、赤色光下で観察した。まずアリーナの角から呼気を吹き込む。その後、一定間隔で連続撮影(5秒間1こま、120ショットで計10分間)した結果、人の呼気がトコジラミの集合に関与することが確認できた。

4.トコジラミのモニタリング用具の比較研究

市販の9種のインスペクション/モニタリング用具のうち次の5種の性能を比較した。
・Night Watch:BioSensory, Inc., Putnam, CT
・BB Catch:BioTrap Science, Portland, Oregon
・Bedbug Detection System(Catchmaster):AP&G Co., Inc., Brooklyn, NY
・Climbup Insect Interceptor :Susan McKnight, Inc., Memphis, TN
・BB Alert Passive :MidMos Solutions Ltd., Brierly Hill, West Midlands, UK
実験には加温した樹脂製袋入りの豚血を給餌して飼育中のトコジラミを用いた。

(1)小規模実験室内試験

縦横それぞれ1フィート長さ7フィートのアレーを作成し、雌雄成虫を各5頭ずつ放ち、その後の捕獲率を観察記録する。実験はモニターごとに3回繰り返し、平均値を求めた。結果はBB アラートが33.7%の捕獲率で1位だったが、最低のナイトウオッチでも29.4%が捕獲されており、統計的有意差は出なかった。
同様の実験を飽食グループと絶食グループのオスとメスの間でも比較した。その結果、飽食絶食グループ共に雌雄間の差は認められなかった。

(2)シミュレーション・テスト

草原の中に建つ別荘を実験場にした。大きなフローリングの広間に、縦横4×8フィートの床(約0.9坪)を2つ用意した。床にはキャスターがとり付けられ、双方を十分に離して配置する。一方の床には小さなベッドが、もう一方には椅子とテーブルが置かれ、それぞれ小規模(ミニ)の寝室とリビングのように作られている。ベッドとテーブルの上には研究者らが実際に使用済みのラグ類(毛布など)を置いた。
実験室内試験の結果を参考に、今回はナイト・ウオッチ、キャッチマスター、クライムアップの3機種が選ばれ、それぞれの用法に従ってモニタリングすることにした。試験には雌雄比1:1の絶食個体を用い、トコジラミを床に放置後の時間経過ごとに、ベッド上、ラグ類の中、テーブル上、床上、フローリング上などの別に、トコジラミ個体数を目視観察記録した。実験室内試験と同じく、3回の繰返しを行ったので、用いたトコジラミの総数は1460頭にのぼった。
試験の結果分かったことは、各種モニターに捉えられるものは意外に少なく、モニタリング用具には全放虫数の約10%が捕獲されたにすぎなかった。
この結果は、実際に被害が認められる現場でのモニタリング時に、生息数を少なく判定してしまう場合があることを示唆するものと考えられた。実験中のトコジラミは雌の方が雄に比べ行動が早く、床上を素早く動き回り、雄がこれを追いかける状況が観察された。
実験終了時に、室内に放ったトコジラミをすべて回収することに努めたが、うち1%が行方不明となり、最後の手段として別荘をくん蒸してこの実験を終了にした。
(この講演に出てくるモニタリング用具については、筆者報文(米国におけるトコジラミ防除の現状、衛生動物:Med. Entomol. Zool. Vol.61 No..3 p.255-260 2010)があるので参照されたい)

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