エデュケーショナル・セッションから(2)

■トコジラミの固体数増加と人に及ぼす影響:ロベルト・M・ペレイラ(フロリダ大学)

 ペレイラさんはトコジラミの吸血習性を観察し、彼らが1週間に何回吸血しているか、またその際に吸う血液の量(ブラッド・ミール・サイズ、mg)はどのくらいかを、さまざまな条件下で実験した。教科書ではお目にかかれない極めて興味深い報告だった。

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1.トコジラミはいつ、どれだけ吸血するか

「バット・バッグ(蝙蝠に寄生するトコジラミ)は寄主がいつ洞穴に帰ってくるかを知るんでしょう」。「5日?、7日?。わかるはず無いんです」。「もし、あなた達だったら、そこにクッキーがあるとすると、充分食べた後で残りをポケットに入れるでしょうね」。
トコジラミは5令を経て成虫になる。1度にどれだけ吸血するか、その量(mg、μL)を、令別に調べたフロリダ大学の報告では、:1令幼虫;0.34mg(0.36μL)で体重の3~4倍
2令幼虫;0.96mg(1.01μL)で体重の4~5倍、3令幼虫;2.08mg(2.18μL)で体重の4~5倍、4令幼虫;4.11mg(4.32μL)で体重の4~5倍、5令幼虫;7.09mg(7.44μL)で体重の2~6倍だった。
成虫になると雄が2.37mg(2.49μL)で体重の1.5倍であるのに対し、雌は7.81mg(8.20μL)と体重の2倍だった。

2.医学的な側面から見たトコジラミ

・28以上もの人の病原菌が見つかるが、
・人の疾患を伝播する証拠はない。
・トコジラミの唾液に含まれる複数のたんぱく質が過敏症を起こさせ、
・ 刺された傷からの2次感染の報告もある。(MRSA抗生物質耐性菌伝播の可能性 Lowe & Romney 2011)
・「もしかしたらトコジラミに自宅が汚染されているかもしれない」という社会的なトラウマ現象が広がりつつある。(PTSDとなるか Goddard & Shazo 2012 )
(ペレイラさんはむしろ精神的被害の方を重要視しているように見える)

3.トコジラミの吸血実験

トコジラミの吸血習性はどのようなものだろうか。毎日吸血するのか、飢えたときいつでも、はたまた2.5日置き(Reinhardt et. al. 2010)とする説もある。
そこで、プリマスロック種の鶏を使って実験を試みた。実験に使った鶏の背部の羽毛を剃り取り、その部分に雌雄1組のトコジラミを入れた網かごを取り付け、試験に供した。
1週間に1度吸血させることにし、吸血時間を5分間と15分間にした。5分にした理由は、寄主(ヒト)がトコジラミに接することが稀に起こる、例えば衣料品店に行ったときなどを想定した。また、15分間という長い時間の接触は、ヒトが稀に行く映画館やホテルなどを想定したからだ。
その結果、「5分間」は満足な吸血時間ではなく、「15分間」はトコジラミが満腹状態になるに十分な時間であることがわかった。吸血量は2頭の合計で、5分間では約5mgだったのに対し、15分間吸血させると約11mgだった。
また、この吸血条件を1週に3回または連日(7回)吸血させるようにすると、回が増えるにしたがって、1回あたりの吸血量は減少し、週3回では7.5mg、週に7回吸わせたときは15分間吸血のときでさえ、約4.2mgにまで低下した。
得られたデータを総合的に考察すると、トコジラミの吸血量は寄主が常に側にいるか、稀にしか出会わないかによって変化すると推察できる。つまり、トコジラミが稀にしか吸血できないと1回吸血量は大きく、連日吸血できるなら1回当たり吸血量は少ない。

4.吸血量と産卵の関係

トコジラミの雌が吸血する主目的は卵の生産だ。したがって雌は雄よりも吸血量が多いが、傍に雄がいるか否かで吸血量が変化する。しかし、吸血が無ければ産卵の無いこともわかっている。
雌の卵巣小管(ovarioles)は左右に7つずつ計14個に分かれている。卵の成熟に3日かかるので、(14÷3=4.7/日と計算され、)1日に4.7個の卵が作られ、1週間では32.9個(4.7×7=32.9)の卵ができることになる。雌は6~15週間生きるので、トコジラミの卵産生能力は次のように計算できる。すなわち;
・1頭の雌が産む卵の数:~200-500個
・吸血の刺激が卵産生に寄与する時間:~10時間
・交尾の刺激が産下に寄与する時間:~3日
・1日に4.7個の卵が産生され、~43-107日の間に全部の卵を産下する
・少なくとも6~15週間生存する
これらの結果から類推できることは、トコジラミの最初の世代は増え方が遅いが、次世代に入ると急速に生息密度が増え、さらに吸血源がすぐ近くに居て、それらの寄主との接触機会が長ければ長いほど増えやすいことがわかる。

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