建設業者の防虫対策

3.屋内繁殖害虫対策(清掃への対応 その2)

元 ㈱竹中工務店 エンジニアリング本部 稲岡  徹

Ⅰ.はじめに

 前回に引き続いて食品工場を想定しながら、今回は床の清掃に関わる建築上の留意点について述べることにします。床は工場の最大のゴミ集積場です。したがって床の清掃は、工場を清潔に保つための最重要ポイントと言えるでしょう。

Ⅱ.清掃性の良い床-構造面から

 構造の観点から言うと、食品や医薬品の製造現場では、R構造の床が採用されます。RとはRound(丸い)の頭文字で、床の端、つまり床と壁の境目が丸みを帯びているという意味です(写真1 )。

 境目が直角の普通の床(写真2 )と比べると、塵埃や穀粉が溜まっても視認性が良く、清掃器具も隅まで届きやすいので、清掃がはるかにやり易くなります。衛生規範では50R(丸みの半径が50mm)が推奨されていますが、防虫効果の点からは半径の大きさに拘る必要はありません。
 床と壁の境界を丸く仕上げる方法には、床からモルタルなどを塗り上げて、言わば壁と一体化するやり方と、床と壁を独立して造り、丸みを帯びた仕上げ材(R巾木)を後付けする方法があります。付け加えますと、床の形状の如何に関わらず、床と壁の取り合い部は巾木を後付けして仕上げるのが通常の工法です。注意すべきは裏側が中空になっているR巾木です。このような製品を使うと、裏側にカビが生え、チャタテムシ等の温床になることがあります。
 こうなると、防虫対策の筈のR巾木が、虫の繁殖場所を提供する結果となってしまいます。巾木の継ぎ目の部分や亀裂のある箇所の近辺に粘着トラップを置いて、これらの昆虫の捕獲調査をすれば巾木内部の虫の発生の有無をチェックできます。
 なお、食品工場だからと言って、すべての部屋や通路の床をR構造にする必要はありません。原則としては、製品や原材料が剥き出しになる部屋の床はR構造とし、他は普通の床でも良いと思います。ただし穀粉を扱う工場では粉状の塵埃の堆積が著しいので、保管庫や更衣室、通路のような部分にまでR構造を採用した方が良いでしょう。

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Ⅲ.傷みにくい床-材質面から

 食品を扱う施設では、床には熱水や各種の薬品が流されることが多く、これらに耐える床材を選ばなければなりません。床の傷みは、膨潤、割れ、剥がれ、亀裂、凹み等を生じさせ、ゴミは溜まり易く、清掃は難しくなり、衛生管理上の大きな問題となり、虫の潜み場所にもなります。このような事態を予防するためには、個々の工場および各部屋の使用状況に合わせて床材を選定しなければなりません。
 食品工場でよく使われる代表的な塗り床の特徴を表1 にまとめました。価格も選定する際の重要な要因ですが、この表では下に行くほど高価格になります。
 低価格のエポキシ系、ポリウレタン系は熱水や多種の薬品に対してあまり耐久性がありません。価格的に中位のMMA系は熱水やアルコール以外の薬品に強いという特徴がありますが、施工時臭気が強い欠点があります。
 広い範囲の薬品に耐久性のあるビニールエステル系、水系硬質ウレタン系は、高性能高価格商品と言えるでしょう。食品工場の床には、この他にタイルやステンレス貼りもあり、機能的には優れた性質を示しますが、さらに高価格なため塗り床ほど用いられていません。
 実際の選定に当たっては、耐熱水・耐薬品性能の他、摩耗や衝撃に対する強さ、滑り難さ、臭い、施工や洗浄のし易さ等も含め総合的に判断して床材を決定します。

Ⅳ.終わりに

 建設業者は、清掃性が良く傷みにくい床を食品工場に提供しますが、それだけで防虫管理がうまく行く訳ではありません。室内の整理・整頓が不十分だったり、棚や設備機械の置き方が悪く、床との間に数ミリとか数センチとか微妙な隙間があり、清掃不可能場所を作ってしまっている例は枚挙にいとまがありません。このような場所こそ屋内繁殖害虫の最大の生息場所です。整理・整頓は衛生管理の基本で、改めて言うまでもありませんが、棚や設備機械はキャスター付きの製品を採用したり、床から20cm以上の間隔を取って清掃性を確保する、反対に床と完全に密着させて清掃を不要にする、というような対策が必要です。
 清掃不可能箇所がいたる所にあるようでは、建設業者の提供した清掃性の良い建物も意味を失います。食品などの製造現場では、建物自体のみならず、そこで使用される各種設備機械、什器類も含めて、トータルに清掃性を確保した上で、良く考慮された計画にしたがって清掃を実行することが、防虫を含めた衛生管理のレベルを維持する上で何より重要です。

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