6.外部から侵入する害虫対策(エアカーテンの効果)
稲岡 徹 元(株)竹中工務店 エンジニアリング本部
Ⅰ.はじめに
今回はエアカーテンを取り上げます。防虫を目的としたエアカーテンとは、昆虫の飛翔を気流で遮断し、その進行方向を変えることで、昆虫の飛来侵入を阻止する装置で、開口部に取り付けます。一般的な製品はシャッターなど開口部の遮蔽装置が開く直前に作動を開始し、閉じるまで風を送り続けて昆虫の侵入を防ぎます。気流が垂直に形成される吹き下ろし式と、水平方向にできる横流式があり、後者はさらに左右の送風機から風が吹き出す対向式と、片側から吹き出し反対側に吸い込まれる循環式に分けられます。それではこれらエアカーテンの有効性とは、どの程度のものでしょうか。今回はそれを考えてみます。
Ⅱ.エアカーテンの効果を示す三つのデータ
表1をご覧ください。①はあるエアカーテンメーカーのカタログに掲載されていたもの、②は研究者が専門誌に発表したもの、③は著者自身の実験結果です。①のデータは素晴らしく、②もかなりの効果を示していますが、これらに対して③は驚くほど低い効果しか得られていません。この違いはどこから来るのでしょうか。 実験の対象となった昆虫の違い、送風方式やエアカーテンの性能に関わる風量や風速の違いによる影響も若干はあったでしょうが、主因はそれらとは全く別の理由によると筆者は考えています。それは実験方法の違いです。
Ⅲ.エアカーテンに向く条件と不向きな条件
エアカーテンの効果を知るためには、送風装置が作動した時としない時の昆虫の飛来侵入数を比較します。これはどの実験でも共通していますが、①や②では、作動時のデータはまずエアカーテンのスイッチを入れ、その後シャッターを開け、かなり長い時間(数十分以上)送風を続け、その間の昆虫侵入数を数えます。非作動時のデータは、送風しないで同じ時間シャッターを開放しておき、その間の昆虫侵入数を記録します。そしてこの両方の数値を比較します。このやり方はエアカーテンの効果が最も明快に現れる方法と言えるでしょう。これに対して③では、シャッターは15分毎に15秒開放、エアカーテンはシャッターが開き始める3秒前に作動開始し、閉鎖直後に作動停止、これを一晩に50回繰り返して1回の実験としました。言うまでもありませんが、対照のデータは、エアカーテンを全く作動させないで15秒間シャッターを開放することを50回繰り返しました。つまり、①や②ではシャッターの開放時間は長く反復回数は少なく、③では開放時間は非常に短く反復回数がたいへん多いという実験条件の相違があり、これがエアカーテンの効果の違いに反映したのだと考えています。
それでは、頻繁なシャッターの開閉とそれに伴うエアカーテン作動のオン・オフは、なぜ昆虫の侵入阻止率を著しく低下させるのでしょうか。それについては次のように考えています。図1をご覧ください。エアカーテンの風の当たらない部分は死角となり、ここに入り込んだ昆虫はエアの影響を受けません。エアカーテン非作動時には、ここにも昆虫が飛来します。特に夜間、屋内や屋外側の庇に照明があれば、昆虫が多数飛来して死角に入り込み、シャッター表面に止まります。この状態でシャッターが開くと、昆虫は飛び立ち屋内に侵入します。このようなことが何十回もくりかえされ、その結果エアカーテンの防虫効果は相殺され、侵入阻止率が低く現れてしまうのです。
上記三つの実験結果から、エアカーテンは開閉回数が少なく1回当たりの開放時間が長い開口部に適した防虫装置であり、開閉回数が多く1回当たりの開放時間が短い開口部には不適である、と結論できます。
Ⅳ. 終わりに
エアカーテンは、開口部の遮蔽装置が開いている時に効果を表わす、風を利用する技術です。したがって、開放する時間の短い開口部に使うと費用対効果が極端に悪くなり、常に強風が吹き付ける面での利用は安定した効果が得られません。エアカーテンの設置に当たっては、1日当たりの開放時間など開閉管理の実態や風向き等をよく考慮して採用されるようお勧めします。
この原稿を書いている最中に興味深い製品(防虫エアカーテンACF0909)を紹介されました。この製品のユニークなところは、吹き出す風が昆虫に忌避作用のあるピレスロイド系殺虫剤を含んでいる点です。このことにより、短時間で頻繁に開閉を繰り返す開口部には向かないというエアカーテンの弱点を克服している可能性があります。殺虫剤の使用が許容できるケースでは一つの選択肢になるかもしれません。