ペストコントロールの基礎知識と知って得する技術ノウハウ・情報 第20回

鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾

出典元:月刊HACCP300号より

日本で最も嫌われている害虫「ゴキブリ」

ゴキブリ…黒く大きく不気味な風貌は、見ただけで不潔、気持ち悪い、怖いといった気持ちにさせられる方も多く、日本で最も嫌われている害虫と言っても過言ではありません。今号ではそんな嫌われ者「ゴキブリ」の中でも比較的大型種である、クロゴキブリ等の生態や防除方法についてご説明させて頂きます。※飲食店に多い「チャバネゴキブリ」については第9号、10号、12号でご説明させて頂いています。

ゴキブリのもたらす害

  • ● 人々に強い嫌悪や不快感をもたらす。
    その姿、行動習性、悪臭、不潔さなどが、人々に強い嫌悪や不快感をもたらします。
  • ● 病原菌を運搬する可能性がある
    ゴキブリは餌を探す為に様々な場所を徘徊し、体に生ごみなどが付いたまま移動してしまう事から、病原菌(サルモネラ菌、大腸菌、赤痢菌)やアレルギー物質(小麦粉など)などを運搬してしまう可能性があります。
  • ● 異物混入時の風評被害
    ゴキブリに対するイメージは「汚い、気持ち悪い、見たくもない、嫌われた存在」だと思います。
    もし、ゴキブリが混入してしまった場合、ゴキブリのイメージの悪さもあり、その企業の衛生管理体制を疑われてしまう、二度とその会社の商品を買わないという感情になってもおかしくありません。
  • ● 喘息のアレルゲンとなる
    ゴキブリの体液、糞、死骸などが喘息のアレルゲンとなる事もあります。
  • ● 電子機器の漏電、接触不良を引き起こす
    家電製品、OA機器、電気通信機器などへ潜入し、漏電、接触不良などによる停電、火災事故、故障の原因になる事もあります。

大型ゴキブリ類3種の生態 1) 2)

食品を扱う施設や一般家庭でよく見かけるゴキブリの中で比較的体長の大きい種はクロゴキブリ、ワモンゴキブリ、ヤマトゴキブリの3種です。

● クロゴキブリ
一般家庭で最もよく見かけるゴキブリ。中国南部原産(諸説有り)半野外的な環境で生息し、繁殖する。餌を求め一般家庭や施設に侵入してくる。冬季は屋外で休眠越冬する。
体長:約30~38mm、成虫の寿命:154~197日
● ヤマトゴキブリ
クロゴキブリに似ているが、少し小型で体表にツヤが無い。
雄は翅が短く、腹部後半部が露出している。原産地は日本。
半野外的な環境で生息し、繁殖する。餌を求め一般家庭や施設に侵入してくる。冬季は屋外で休眠越冬する。
体長:約18~30mm、成虫の寿命:124~179日
● ワモンゴキブリ
前胸背板に黄褐色の輪のような紋がある事からワモンゴキブリと呼ばれる。アフリカ原産で低温に比較的弱く、ビルや地下街、下水道などに多く生息する。
体長:約35~45mm、成虫の寿命:約200~588日

クロゴキブリとチャバネゴキブリの違い

大型ゴキブリ類とチャバネゴキブリでは生態が大きく異なりますので、クロゴキブリとチャバネゴキブリの主な違いを下記に記載させて頂きます。

  • ● 生息、繁殖する場所
    クロゴキブリは主に屋外で生息、繁殖します。(チャバネゴキブリの場合、屋外ではなく主に屋内で生息、繁殖します。)一般家庭で見かけるケースは、餌を求め徘徊する内に偶然浸入してしまっただけです。都市伝説のように1匹見かけたら100匹はいるという事ではありませんので、目の前の1匹を駆除し、とりあえず一安心して下さい。ただし、食品倉庫など、餌も隠れ家もたくさんある場所への侵入を許してしまうと繁殖してしまう事がありますのでご注意下さい。
  • ● 体長
    クロゴキブリの場合、体長約30~38㎜に達します。チャバネゴキブリと比べて約2倍の体長に成長します。
  • ● 成虫になるまでの期間
    クロゴキブリの場合、卵から成虫になるまで約4カ月~5カ月間必要です。チャバネゴキブリと比べて約2.1倍も長い成育時間を要します。
  • ● 生存期間(寿命)
    クロゴキブリの場合、成虫になってからの生存期間は約5カ月~7カ月弱です。チャバネゴキブリと比べて約1.6倍も長い生存期間です。
    表1.ゴキブリ4種の産卵数、発育期間、脱皮回数、成虫生存期間 1)
    項目 チャバネゴキブリ クロゴキブリ ヤマトゴキブリ ワモンゴキブリ
    卵鞘内の卵数(個) 18~50 22~28 12~19 13~18
    メスの産卵回数(一生) 5~6 20~30 7~41 10~84
    卵期間(日) 20 31~47 27~42 32~41
    幼虫期間(日) 33~70 84~112 98~413 90~200
    幼虫脱皮回数 5~6 8~11 9 8~12
    成虫生存期間(日) 95~142 154~197 124~179 200~588

殺虫剤数種のクロゴキブリ・チャバネゴキブリノックダウン時間試験(社内試験)

クロゴキブリに効果的な殺虫剤を調べる為に、クロゴキブリ及びチャバネゴキブリに対する殺虫剤数種に対する社内試験を実施しました。

■試験概要

供試昆虫 チャバネゴキブリ成虫4匹・クロゴキブリ成虫4匹
手順 ベニヤ板に供試薬剤を散布・塗布し、風乾させる。供試昆虫を強制接触させ、全頭ノックダウンするのに要した時間を2回ずつ測定し、平均時間を記録する。
供試薬剤 フェニトロチオン10%乳剤、ジクロルボス5%乳剤、プロポクスル1%油剤、
プロペタンホス20%MC剤

■試験結果

有効成分 剤型 希釈倍率 クロゴキブリ
ノックダウン時間
チャバネゴキブリ
ノックダウン時間
フェニトロチオン10.0% FL剤 10倍希釈 76 39分
ジクロルボス5.0% 乳剤 10倍希釈 57 33分
プロポクスル1.0% 油剤 原液 1 1分
プロペタンホス20.0% MC剤 40倍希釈 80 90分
対象区(無処理) ノックダウン無し ノックダウン無し

■考察

  • ● プロポクスル1.0%油剤はクロゴキブリ、チャバネゴキブリ共に1分でノックダウンしており、他剤と比較しても顕著なノックダウン効果を示した。
  • ● フェニトロチン10.0%FL剤、ジクロルボス5.0%乳剤の場合、クロゴキブリの方がノックダウンにかかる時間は1.7~1.9倍多くの時間を要した。
  • ● プロペタンホス20.0%MC剤は、有効成分がマイクロカプセルに包まれている為、有効成分がゴキブリに暴露されるまでに時間がかかり、乳剤FL剤と比べてノックダウンに多くの時間を要した。

大型ゴキブリ類の防除方法

大型ゴキブリ類は外部から侵入する事が多いので、チャバネゴキブリと共通の防除方法に加え、侵入予防策、侵入されても速やかに駆除出来る対策を講じる事が重要です。

  • 1. 定期的な生息調査を実施する
    チャバネゴキブリ同様に定期的な生息調査を実施しましょう。そして間取り図に大型ゴキブリ類の捕獲数を記載しましょう。何処からの侵入が多いか分かりますので、対策を実施すべき場所が明らかになります。
  • 2. 扉やドアの開閉時間を出来るだけ少なくする
    クロゴキブリの侵入は扉やドアの開閉時が意外と多く、特に扉が開けっ放しになっていては、侵入の危険性が高くなります。暑い時期ではありますが、開けっ放しにしないよう注意しましょう。
  • 3. 侵入箇所に忌避剤や殺虫剤を予め散布する
    侵入箇所となっている「施設外に面している」扉、ドア、壁面などに忌避効果のある殺虫剤やクロゴキブリに対する駆除効果の高い殺虫剤を予め散布する事も、侵入を予防する為の効果的な方法の一つです。
  • 4. チャバネゴキブリ、大型ゴキブリ類、両方の生息が見られる時は殺虫剤を変更する。
    大型ゴキブリ類はチャバネゴキブリと比較して、殺虫剤の効果が表れるまでに時間がかかる傾向が見られます。害虫駆除業者(PCO)にチャバネゴキブリの駆除を依頼している場合、チャバネゴキブリに適した殺虫剤を使用している可能性が高いので、大型ゴキブリ類にも効果の高い殺虫剤を使用して貰えるよう相談してみて下さい。※薬剤変更には別途追加料金が発生する場合があります。

大型ゴキブリ類防除におススメの殺虫剤

上記試験結果だけでなく、今までご紹介させて頂いた殺虫剤の中から大型ゴキブリ類防除におススメの殺虫剤を紹介させて頂きます。

忌避+殺虫ならレスポンサー水性乳剤

ゴキブリを致死させる効果を持つと共に、ゴキブリに対して忌避性(嫌がって避ける)が強い殺虫剤です。出入口などに散布する事で、ゴキブリの侵入を予防します。

商品名 レスポンサー水性乳剤
医薬品分類/メーカー名 第二類医薬品 / バイエルクロップサイエンス株式会社
有効成分名 シフルトリン1.0%
商品説明 ゴキブリに対して特に強い忌避性を発揮します。また、有効成分にゴキブリが接触すると高い駆除効果も発揮します。

クロゴキブリへの効果が高く、待ち伏せて殺虫するカーバメイト系殺虫剤

上記試験で最も早いノックダウン時間だったプロポクスルを用いた殺虫剤です。
約1カ月間効果が残留する為、侵入しやすい場所などに予め散布しておくことで、待ち伏せ的な効果が期待できます。※散布後は有効成分が結晶化し、若干白い散布跡が残ります。

商品名 マイティジャガー
医薬品分類/メーカー名 第2類医薬品 / 住商インターナショナル株式会社
有効成分名 プロポクスル1.0%
商品説明 油剤なので引火性があり、臭いも多少しますが、有効成分のプロポクスルは速効性、駆除効果、共に優れており、特にクロゴキブリなど大型のゴキブリに対しても有効です。PCOの中にファンが多い殺虫剤の一つです。

殺虫成分が他の個体に伝播するベイト剤

ベイト剤はゴキブリが好む餌に伝播性(有効成分が他のゴキブリにも伝え広まる事)を持つ有効成分を配合する事で、オスのゴキブリが食べたベイト(毒餌)を巣まで持ち帰らせ、巣から出てきにくいメスのゴキブリも駆除させる事が出来ます。ベイト剤はチャバネゴキブリの駆除で一般的な殺虫剤ですが、チャバネゴキブリ、大型ゴキブリ類の2種が施設内で生息、繁殖してしまっている現場では、ベイト施工も併用する事がオススメです。また、クロゴキブリに対する高い駆除効果が確認されている薬剤を選ぶ事も重要です。

商品名 マックスフォースマグナム
医薬品分類/メーカー名 医薬部外品 / バイエルクロップサイエンス株式会社
有効成分名 フィプロニル0.05%(w/w)
商品説明 非常に喫食が良い餌を配合しており、一口食べるだけで十分な致死量の有効成分を配合しています。専用のケースに入れて使用する為、誤飲、誤食、混入もしづらくなっています。また、約2か月間駆除効果が持続します。
しかし、非常に高価な殺虫剤となっており、PCOがこの殺虫剤を使用する場合は追加料金が必要となる事もあります。

商品名 アドビオンLSジェル
医薬品分類/メーカー名 第二類医薬品 / シンジェンタジャパン株式会社
有効成分名 インドキサカルブ(S体) 0.6g(100g中)
商品説明 今までにない新しい有効成分を配合している為、食い飽きや殺虫剤抵抗性を獲得したゴキブリに対しても駆除効果が期待できます。クロゴキブリ、ワモンゴキブリなど大型ゴキブリ類にも少ない薬剤量で優れた駆除効果を発揮します。

商品名 ミサイルジェルD
医薬品分類/メーカー名 医薬部外品 / 住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
有効成分名 ジノテフラン 0.5w/w%
商品説明 ゴキブリに速効性を示す有効成分ジノテフランを配合し、速効かつ確かな効果が得られます。・ゴキブリの好む誘引剤を配合し、常にシリンジからフレッシュな薬剤を注入できるので、喫食性に優れます。チャバネゴキブリおよびクロゴキブリに効果を発揮します。

供試
薬剤
経時に伴う平均致死率(%) 5)
3時間 6時間 24
時間
48
時間
72
時間
96
時間
144
時間
ミサイル
ジェルD
10.0 26.7 46.7 70.0 80.0 100 100
市販品 0 0 10.0 30.0 70.0 90.0 100
ブランク 0 0 0 0 0 0 0

引用・参考文献

1)緒方一喜、住環境の害虫獣対策、第5版、一般財団法人日本環境衛生センター、2016、P43
2)林庄一.害虫スライド集,10,1999. 公益社団法人日本ペストコントロール協会.
3)バイエルクロップサイエンス株式会社,マックスフォース マグナム テクニカルレター クロゴキブリに対する屋外試験,https://www.environmentalscience.bayer.jp/-/media/prfjapan/tips-and-tools/pest-management/tech_letter/pdf/mfm_black_cockroach.ashx?la=ja-jp (最終検索日:2020年7月27日)
4)シンジェンタジャパン株式会社,アドビオンLSジェル製品資料,https://www.syngentappm.jp/sites/g/files/zhg1141/f/media/2019/08/26/advionlsgel-lf_201908.pdf?token=1567658194 (最終検索日:2020年7月27日)
5)住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社,ユーザー説明会ミサイルジェルD(2010.2.26).

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