鵬図商事株式会社 企画営業部長 白石啓悟
建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法)が2003年に改正され、「ねずみ等の防除」について、IPMを念頭に置いた防除が求められるようになりました。しかし法にはその要領の定めがなく、(社)日本ペストコントロール協会はその仕様書(建築物におけるIPM仕様書)を作成頒布し、PCOが防除施工を行うときの指針としてきました。
このような背景から、「建築物衛生維持管理要領等検討委員会」が組織され、昨年1年間の検討の末、成案「建築物における維持管理マニュアル」とされ、今年1月25日に厚生労働省健康局長通知の運びとなりました。
特定建築物におけるねずみ等の防除は、マニュアルの第6章 ねずみ等の防除-IPM(総合的有害生物管理)の施工方法-に12ページにわたり詳述されています。行政が出す通知や告示などは法と同等もしくはそれらに準ずる効力を持ちます。PCOには、このマニュアルに即した生活者や環境に配慮した安全な施工が、いままで以上に強く求められることになるでしょう。このマニュアルでとくに定められた、管理目標水準の維持に関する顧客(施主)との認識統一や、使用する医薬品もしくは医薬部外品殺虫剤等の安全管理に、さらに努力が求められているところです。
今回は「建築物における維持管理マニュアル」の概略及び特徴について述べます。
1.1PMとは
Integrated Pest Management(総合的有害生物管理)の略で、特定建築物におけるIPMとは、建築物において考えられる有効・適切な技術を組み合わせて利用しながら、人の健康に対するリスクと環境への負荷を最小限にとどめるような方法で、環境基準を目標に有害生物を制御し、そのレベルを維持する有害生物の管理対策と定義されています。
2.1PMの手順
1)組織作り~目標水準の設定
まずは、建築物ごとに全体を統括する責任者を決め、実施のための組織を作ります。次に建築物やその防除箇所ごとに目標水準を設定します。基本的に本マニュアルの目標水準値を採用しますが、必要であれば、関係者協議の上、所定の水準値を逸脱しない範囲で別途設定します。
本マニュアルでは防除対象をネズミ、ゴキブリ、蚊、ハエ・コバエ類、イユダニなど吸血性のダニに分類し、それぞれに目標水準を記載しています。各防除対象の目標水準の詳細はマニュアルを見ていただくとして、各水準の状況は以下の通りです。
(目標水準)
①許容水準:環境衛生上、良好な状態をいう。
施行規則及び告示に基づき、6ヶ月以内に一度、発生の多い場所では2ヶ月以内に一度、定期的な調査を継続する。
②警戒水準:放置すると今後、問題になる可能性がある状況をいう。
a)警戒水準値に該当する区域では整理、整頓、清掃など環境整備の状況を見直すことが必要である。また整備を行うにもかかわらず、毎回、発生する場所では、管理者や利用者の了解を得て、人などへの影響がないことを確認した上で、掲示をして、毒餌などを中心に薬剤処理を行う。
b)個々の対象では許容水準をクリアーしているのにもかかわらず、複数の種が発生する場所では、環境が悪化している恐れがある場所が多いことが考えられるので、清掃等を中心に環境整備状況を見直す。
③措置水準:ねずみや害虫の発生や目撃をすることが多く、すぐに防除作業が必要な状況をいう。
水準値を超えた区域では、発生源や当該区域に対して環境的対策を実施すると同時に、薬剤や器具を使った防除作業を実施する。
(社)日本ペストコントロール協会が作成した「建築物におけるIPM仕様書」では、ねずみ・昆虫等の環境による繁殖要因の違い、駆除の必要度の違いから、区分A:食料エリアから区分E:オフィスエリアまでに区分され、それぞれに 維持管理基準が設けられていましたが、本マニュアルでは、この区分及び区分別推持管理基準がなくなり、一律に目標水準が設定され ました。そして必要あれば別途協議の上定めるようになりました。
2)調査~防除作業
各区域の水準値を知るために調査を実施します。IPMでは調査が基本となります。本マニュアルにおいても、ネズミ、ゴキブリ、蚊と防除対象別に、さらに生息調査と環境調査に分けて、詳細に調査方法が述べられています。
十分な知識を有する技術者が、目視を行なった後、問題箇所について、トラッピング、使用者へのアンケート等を中心に調査をおこないます。調査結果を基に事前調査記録書を作成します。
次に調査結果から各水準を判断し、標準的目標水準に合わせた作業計画を策定します。防除作業の手順に関しましても、ネズミ、ゴキブリ、蚊に分けて詳細に決められています。
調査後あまり長い期間を開けずに措置をおこないます。措置は環境的対策を重点的におこないます。環境的対策の多くは、建築物推持管理権原者の責任の下で実施することになつています。建築物の所有者や使用者と常日頃からコミュニケーションを取り、定期的な現状報告会や村策会議を開き、信頼関係を築くことが大切になります。
薬剤を使用する時は、医薬品、医薬部外品を用い、用法・用量及び使用上の注意をよく読み遵守します。また散布範囲をできるだけ限定し、製剤や施工方法を選びリスクを少なくします。ゴキブリ防除におきましては、まずは掃除機による吸引除去で対応し、それでも十分な効果が出ない時は、食毒剤(ベイト剤)を配置するとしています。液剤よりもベイト剤の使用をより推奨しています。
なお、薬剤を使用する場合、事前に当該区域および当該建築物の管理者や利用者の了解を得て実施し、実施の前3日間ならびに薬剤処理後3日間その旨を掲示します。
なお、同日通知された「建築物環境衛生維持管理要領」には、「食毒剤の使用に当たっては、誤食防止を図るとともに、防除作業終了後、直ちに回収すること」、「薬剤散布後、一定期間入室を禁じて、換気を行う等利用者の安全を確保すること」が記載されています。
措置後は効果判定をおこない、許容水準に達成しているか確認します。
ゴキブリのトラップ調査においては、ゴキブリの捕獲指数の算出方法も厳しく決められました。配置したトラップが10個までは上位3つまで、それ以上配置した場合は、上位30%のトラップを用いて算出するように述べられています。
許容水準に達成していない場合は、原因を調査後、再度措置を行います。
許容水準に達した後は、6ケ月以内に、発生の多い場所では2ケ月以内に一度、定期的な調査を実施して、許容水準を維持していることを確認します。警戒水準、措置水準になった場合は、それぞれの措置を実施することになります。
3)作業の記録及び記録の保持
本マニュアル通りに防除して、その記録を詳細に残すことが大切です。
防除作業終了後は、防除作業を実施した日時、場所、実施者、調査の方法と結果、決定した水準、措置の手段、実施場所、評価結果等を記録して保存します。結果はできるだけ詳細に記述します。
特に薬剤散布を実施した場所についてはひとつの部屋であっても、どの部分をどのように措置したかを見取り図で示すことが望ましいです。また薬剤処理時、施主に説明した資料や掲示した用紙等も記録として残せば、事後に問題が発生したとしても対処しやすいはずです。
本マニュアルの通知は近年の化学物質への不安や環境への負荷増大への反省等が背景にあります。このマニュアルの遵守とその記録及び記録の保管は、一見作業が増えて面倒に思えるかも知れません。しかし、近頃新聞紙上を賑わせている中国のギョーザ問題のような事件がいざ起こった時、マニュアル遵守の管理とその記録が、PCOの皆様をクレームや訴訟等から守ってくれます。本マニュアルの遵守を心掛けたいものです。