(一財)日本環境衛生センター
環境生物・住環境部部長 武藤敦彦
もうすぐ、梅雨が明けると本格的な虫の季節がやってきます。ちょっと厄介な虫もいますが、基本的には虫は好きです。お陰さまで?子供たちも孫たちも虫嫌いになることはなく育ちました。孫たちは天気が良ければ毎日のように捕虫網を持って駆けずり回っています。虫に関する様々な相談を受けていると、なんでこんな虫で騒ぐのだろう、ほっとけばいいのに、と思うことがしばしばあります。先生や親など、周辺が虫嫌いだと虫嫌いの子供が育ってしまうことが多いようです。小学生が使うノートの表紙から昆虫が消えてしまった事件は記憶に新しいところです。とても残念に思います。
飛んで火に入る夏の虫。気がつかずに、または、自ら進んで危険や災難の中に飛び込んでいくことのたとえですが、実際、夏になると多くの虫たちが灯りに飛んできます。わが家では4月の中・下旬頃から目立つようになり、梅雨明け頃にピークをむかえます。それ以外にも秋口に羽アリが大量に飛来したり、山梨県の山中に建てた山小屋では、初冬の頃にカメムシ類が越冬のために大挙して飛んできたりします。
建物に飛来する昆虫については、これまでも、このPMPニュースに防虫の観点から稲岡先生が何回か執筆れていますが、私からは一般家屋にどのような虫が飛来・侵入するのかについて、わが家での調査事例「飛んでトラップに入る夏の虫」を中心に紹介させていただきたいと思います。
私の家は神奈川県大磯町にあり、海からの距離が500m程度、周りは住宅地や空き地に囲まれています。庭には雑草も含めて植物が多く、蚊やユスリカの発生源になりそうな水たまりがいくつかあります。駆除実験以外では基本的にとくに殺虫剤等の処理は行っていません。
図1は30Wの昼白色のサークルライン型蛍光灯を使用したファン式のライトトラップを使用し、2晩連続で6月中旬に捕虫を行った結果を示しています。窓を15㎝程度開けた10畳間の中央にトラップを設置し、夜間のみ作動させ捕虫を行いました。その結果、2晩で5目、14科、277匹が捕集されました。同時期に捕虫用蛍光灯を装着したトラップでも2晩にわたり捕虫しましたが、この場合は7目、23科、383匹が捕集され、やはり捕虫用蛍光灯のほうが誘引性が高いことが分かります。とくにチョウ目(蛾類)とコウチュウ目の捕集数で差が認められました。これは6月の結果ですが、他の時期の結果も合わせると、昼光色の蛍光灯でも7目、28科の昆虫が捕集されています。
図2は毎月2週間ずつ、屋内で30Wの捕虫用蛍光灯(BL)を使用したライトトラップを作動させた場合の捕集数の年変動を示しています。この調査では、窓の開閉、照明の点灯、調理など家族4人がごく普通の生活をし、トラップは、昼夜を問わず連続的に作動させて捕虫を行いました。その結果、1年間で9目、55科、1857匹が捕集されています。
いずれの調査でも、ハエ目昆虫、とくにタマバエ、ユスリカ、クロバネキノコバエ、チョウバエ類などの捕集数が多く、年変動の調査ではノミバエ類も多数が捕集されました。これらの種類は、以前行った食品等の製造所内での調査でも、同じように多数が捕集されていますし、その他の飛来・侵入昆虫調査でも常に上位に顔を出す種類と言えると思います。地域や立地条件による影響はあると思いますが、一般家庭でも窓を開放していたりすると、結構多くの虫が室内に侵入してくることがこの調査結果から分かります。近年の虫よけ製剤(吊り下げ製剤)の売れ行きが好調なのは、このようなことが背景にあるのでしょうか?
図2を見ると7、8月の盛夏より秋に捕集数が多くなっている種類があります。ユスリカ科などで盛夏に発生数が減少する例は知られていますが、夏は窓を閉め切って冷房を使用したり、虫が多いので網戸の開閉をきちんとするなどによる可能性も考えられます。今話題のクロバネキノコバエの個体数はそれほど多くありませんでした。私も伊豆の山中で大発生を経験したことがあります。朝になると夜間飛来して死んだ個体が窓枠に数㎝積っているような状態でした。このような状況ですと、悠長にこんな調査はやっていられないかもしれません。
以前は夏になると子供たちを連れて山中にクワガタムシやカブトムシ採りに出かけました。手抜き採集というか、山中に捕虫用蛍光灯と白いシーツを持ちこみ、広げたシーツの前で蛍光灯を点灯して夜間採集をします。すると、実に多種多様な走光性昆虫が飛んできます。見ていて飽きませんが、クワガタムシなど目的とする昆虫以外にも、ドクガやカメムシ、ゴミムシ類など、あまりありがたくない虫たちも多数飛んできていて、うっかりするとあちこち痒くなったり、服に臭いが染み付いたりすることになります。ここ2年ほどは出かけていませんが、今年は孫でも連れて出かけようかと考えています。
学生の頃、よく仲間とブラックライトを持って夜間採集に出掛けました。その頃も異物混入でよく問題となるユスリカやクロバネキノコバエなどが多数飛んできていたのだと思いますが、その頃、こういった虫達に興味を示す仲間は一人もなく(私もそうでした)、ただひたすら自分の研究対象となっている虫の採集に没頭していました。蛾の分類をやっている仲間がいて、氷点下の凍てつく寒さの中で、フユシャクという蛾の夜間採集に付き合ったこともあります。さすがに他に飛んでくる虫もなく、全く面白くありませんでしたが、懐かしい思い出です。
現在、わが家の庭では、光に飛来する虫の調査以外に、毎年、ヒトスジシマカの発生消長調査も行っています。ライトトラップ調査では、どこから飛んでくるのか、近くに発生源が無いはずなのに、清流から発生するブユやトビケラが採集されます。自宅など、身近なところでも、調べてみると様々な発見があり、なかなか面白いものです。皆さんもぜひトライしてみてください。