常総市での水害時消毒作業 ~茨城県ペストコントロール協会の活動

鵬図商事株式会社 足立雅也

 茨城県常総市は、茨城県の南西部に位置し、南北に細長い同市の中央に鬼怒川、市東に小貝川が北から南へと流れています。9月9日から降り続ける雨によって、翌10日の早朝に鬼怒川の数カ所で氾濫し、12時50分に左岸の三坂町付近で堤防が決壊しました。鬼怒川と小貝川に挟まれた、約40平方キロメートルの範囲(国土地理院資料)で床下・床上浸水の被害がありました。

 県と市は早期に復旧のための協議や作業を開始し、そのひとつに、“消毒”という作業がありました。この“消毒”に協力したのは、一般社団法人茨城県ペストコントロール協会でした。水害後の消毒は感染症を予防するために重要な作業で、この情報を発信することは必ず誰かの役に立つと思い、茨城県ペストコントロール協会の梅沢謙二会長にお願いをして、常総市で行った消毒作業についてお話を聞かせていただきました。

[足立]「今日はよろしくお願いします。早速の質問ですが、9月10日(木)に水害が発生ましたが、消毒の依頼はいつ頃あったのでしょうか。」
[梅沢]「9月11日(金)に茨城県から連絡は頂いていましたが、翌9月12日(土)の朝、しきりに電話が鳴りましたので、会社は休日でしたが、もしやと思い電話に出ると、茨城県の対策室からでした。常総市で大きな水害があり、当協会に協力をお願いしたいとのことでしたので、できる限りのことは協力しますと返答しました。夕方には、常総市からも協力を求める電話がありました。」
[足立]「いつから活動を始めたのですか。」
[梅沢]「翌日の9月13日(日)に常総市役所を伺いました。茨城県、常総市、当協会の3者で、消毒作業について検討会を行いました。」
[足立]「日曜日でも役所は動いていたのですか。」
[梅沢]「出てこれる職員は、みんな出てきていたように感じました。とても慌しくされていました。駐車場には自衛隊、マスコミ、ボランティアなどの車両がたくさん止っていました。上空にはヘリコプターがたくさん飛んでいました。」
[足立]「被害の範囲や状況はどれほどだったのでしょうか。」
[梅沢]「鬼怒川の東側で、南北21kmに水が広がり、住宅約11,000戸が浸水したと聞いています。消毒を早急にやって欲しいと要望されました。」
[足立]「早急にやって欲しいと言われても、状況を把握するのも、準備が整うのも、人の手配も時間がかかるのではないですか。」
[梅沢]「過去に起きた水害の報告書に、当時から目を通していたり、消毒に携わった方から詳細のお話を聞かせていただいたりしていたので知識はありました。ですから、どんな消毒薬を、何倍に希釈して、どのように水を入手して、どこに撒くか、どこから作業を始めるか、被害状況や作業の進捗をどのように把握していくか、などの消毒作業に決める必要事項が、次々と頭に浮かびました。それらをこのときの検討会で決めて、翌日の14日(月)から消毒を開始しました。」
[足立]「とても迅速な対応ですね。消毒薬は役所の備蓄を使用されたのですか。」
[梅沢]「いいえ。自ら調達したものを使用しました。実はお電話を頂いた12日(土)に薬局を回って、使用するであろう2~3日分の消毒薬を買い集めていました。土日は薬品メーカーも問屋も休日なので入手できません。月曜日に注文しても、消毒薬が届くのは翌日か翌々日になるので、すぐにでも作業ができるように自己判断で調達をしました。」

[足立]「消毒薬は何を使用したのですか。機材や水はどのように調達したのですか。」
[梅沢]「逆性石けんの塩化ベンザルコニウムを水で200倍に希釈し、それぞれの茨城県ペストコントロール協会員が所持しているエンジン動噴で噴霧しました。薬液を入れるタンクは300Lのサイズを車に積んで、県で給水の手配をして頂いた鬼怒川の西側にある被害を受けなかった2カ所の浄水場で水を調達しました。消毒薬を使い切ったら再び浄水場まで行って、消毒薬を希釈して、を繰り返しました。」
[足立]「家屋の中まで消毒をされたのですか。まだ、泥が残っていたのではないですか。」
[梅沢]「依頼を請けた消毒は門から玄関までのアプローチ、敷地内汚染物等で汚染された箇所、敷地前のゴミや瓦礫、住民から要望のあった箇所等を重点的に行うことでした。建物の中は入りません。」
[足立]「1日に何人の方が活動されていたのですか。どこから消毒を始めたのですか。」
[梅沢]「2人組みを1班として、午前9時から薄暗くなる午後5時近くまで消毒作業をしました。初日の14日(月)は、2班が北部側と南部側に分かれて、中央に向って消毒を進行しました。作業開始から4日目には、隣接する埼玉県のペストコントロール協会の大場会長に協力を打診していたのですが、その後正式にお願いをして9月21日(月)から平均1日3班が応援に来てくれました。両協会を合わせて、最大1日14班が活動したこともありました。」
[足立]「進捗管理はどのようにされたのですか。」
[梅沢]「作業の進捗状況の把握と記録のためには、1軒ずつ世帯主のわかる住宅詳細地図が必要で、消毒の終わった部分に色をつけたり、日にちを記載します。当初は常総市役所内のパソコンやFAXは、電気が不通の上に水没しているので動きません。混乱と明かりのない薄暗い役所内では、地図を探そうにもなかなか見つかりません。何とか数日分の地図を市の担当の方が用意してくれました。これから先何日かかるか見当のつかない消毒作業を、滞ることなく計画を立てて遂行するためには市内全域の住宅詳細地図が必要です。そこで、ゼンリンを伺い、常総市の住宅地図CDを入手してきました。全てのページをプリントアウトし、必要部数分のコピーをとるのにまる1日作業になりました。」

[足立]「住宅詳細地図はどのようにご使用されたのですか。」
[梅沢]「先に申したとおり、浸水した家屋は約11,000戸です。その1軒ずつを訪問し、居住者の方がいらっしゃったら被害の状況を聞かせていただき、消毒が必要かどうか判断します。被害が小さかったという理由で、消毒を断る方もいらっしゃいました。不在のお宅は避難されている方や、お勤めに行かれている方でした。不在宅は後日再訪問します。これらのことを地図に書き込んで行き、協会本部も現場情報を共有しました。中には1日に100軒以上回る班もありましたので、進捗を把握しながら指示を送るのも大変です。」
[足立]「トラブルや困ったことはありましたか。」
[梅沢]「がれき処分のボランティアなどと言って、実は泥棒だったという事件もあり、消毒に来たことを信じてもらえないことがありました。そこで、‘緊急災害出動 消毒車両’、‘一般社団法人 茨城県ペストコントロール協会’と記載したステッカーを車に取り付け、作業服の上から協会名の入った蛍光色のビブスを着用しました。さらに、市のホームページにも、蛍光色のビブスを着た者が消毒に伺う、との案内を掲載していただきました。また、化学物質に対して敏感に症状が現れる方から、ご不安になられている旨の問い合わせがありました。使用する消毒薬や噴霧の方法などを丁寧に説明することで、ご理解とご安心をいただきました。」

[足立]「一般の家屋での消毒について、問い合わせはありませんでしたか。」
[梅沢]「家屋のほか学校や幼稚園などからもお問い合わせをいただきました。そのたびに自分たちでできる消毒方法と、消毒薬の購入先を教えました。」
[足立]「今後の予定を教えてください。」
[梅沢]「10月8日(木)に浸水した地域の消毒は終了しました。のべ180班が5,565戸の消毒を行いました。今後は、新たな範囲の消毒の希望や害虫駆除の相談にも対応していきたいと考えています。」
[足立]「お忙しいところ、貴重なお話を聞かせていただき、誠にありがとうございました。今後も、ケガをしないよう注意してご活動ください。」
[梅沢]「ありがとうございました。」
 
 このたびの平成27年9月関東東北豪雨の被害に遭われた皆様、現在もなお、避難を余儀なくされている皆様に、心よりお見舞い申し上げます。皆様の生活が、一刻も早く普通の生活に戻られますよう、お祈り申し上げます。

  • クリンタウン
  • 虫ナイ

PMPニュース343号(2015年11月)に戻る