侵入種の中でも何故ヒアリは繁栄できるのか?我々は何をそこから何を学んだのか?

Chin-Chen Yang (Scotty) Ph.D.
Junior Associate Professor
Kyoto University

 アリが世界中で繁栄する要因の一つして社会性があげられます。全てのアリは社会性昆虫なのに、なぜごく一部の種類だけが侵入種となるのか?また、侵入種の中でもなぜヒアリが最も悪名高いのでしょうか。

 侵入種のアリには在来種と異なる共通するいくつかの特徴があります。異なる特徴として、

  1. 複数の女王を有する、複雌コロニーを形成する
  2. Budding(巣わかれ)により新たなコロニーを形成する
  3. 侵入初期段階では、天敵から逃避する

ヒアリ(Red Imported Fire Ant)も上記の特徴を有しておりますが、他の侵入種よりその能力に優れているように思われます。

複数の女王アリを有するコロニー

 ヒアリの複雌(Polygyne)コロニーには複数の女王が存在しており、繁殖数が高く巨大なコロニーを形成します。言い方を変えれば、複数の女王がいれば職蟻の数も多くなり、したがって問題も大きくなるといえます。コロニー中、全ての女王を駆除しなければ、複雌コロニーを撲滅することはできません。コロニー中の女王の数が多ければ多いほど撲滅するのは難しくなります。わずかでも女王が生き残っている場合、数週間でコロニーは再生されます。
 遅効性ベイト剤をコロニー全体に伝播させるのがより確実な駆除方法といえます。
 接触殺虫剤による駆除はコロニー全てのヒアリが接触してくれれば効果を発揮しますが、複雌コロニーには数十頭の女王が存在している場合もあり、地中に信じられないくらい複雑に形成された蟻道に隠れています。そう考えると、複雌コロニーを撲滅するにはヒアリのtrophallaxis(口移し給餌)する性質を利用して遅効性ベイト剤を用いるほうがより効果的だと思いませんか?

Budding(巣分かれ)

 複雌コロニーは通常、Budding(巣分かれ)により拡散していきます。女王が数百頭の職蟻を引き連れ匍匐で母コロニーから近い場所へ移動し、そこで新たなコロニーを形成することを巣分かれといいます。巣分かれで新たに形成されたコロニーには女王が母コロニーから引き連れてきた職蟻の成虫がいるので、コロニーとしては未成熟ではありますが全てを一から構築する必要がありません。巣分かれによるコロニーの拡散はゆっくりと侵攻します(基本的に匍匐により移動するため)。生態学的に長期間を要しますが、母コロニー同様の強大なコロニーへと成長し、更に巣分かれがくりかえされ非常に個体密度の高い状況を形成してきます。

 コロニー撲滅の観点からすると、巣分かれによるコロニー拡散の場合、母コロニーの近くに新たなコロニーが形成され広域に拡散するのには時間を要することから駆除失敗のリスクが低いとも言えます。理論的には、適切な防除計画を実行すれば、複数の女王に支配されている個体群を僕熱することは可能です。しかし、ここで喜ぶのは早すぎます、それはヒアリには単雌(Monogyne)というもう一つ異なる社会構造があるからです。前号までにも触れましたが、単雌ヒアリは交尾飛行により拡散し、7キロから10キロの距離を飛翔することが可能です。実際には世界中のヒアリ蔓延地域において単雌、複雌の個体群が混在しており、単雌女王蟻の飛翔により個体増加率が加速度的に速くなり、懸命に防除しても増加率に追いつくことが不可能です。

 台湾における現在のヒアリ発生状況は、一貫して予測として述べてきたとおり、桃園 (Taoyuan:台湾北部)個体群の急速な拡散は明らかに単雌個体群により助長されたものです。単雌個体群は拡散能力が優れているためです。その一方で、嘉義(Chiayi:台湾中南部)の場合、発生した個体群が複雌であったため個体数の拡大が緩やかなであったため撲滅に成功することができました。

天敵からの逃避

 アリ科の多くが侵入種として繁栄する理由は、enemy release hypothesis(天敵開放仮設)により説明することができます。これは、天敵が多く生息する場所から逃避し、天敵が少ない新天地で繁殖するとゆうものです。ヒアリは南米からアメリカに侵入し、繁栄したわけですが、南米には30種以上のヒアリの天敵が30種生息しているのに対してアメリカには僅か2種ないし3種しか天敵が生息していないとの論文発表がされてあります。

 10年近く前ですが、天敵開放仮設に興味を惹かれ、アメリカから世界の他地域(オーストラリア、台湾、中国等の新興発生地域)へヒアリが侵攻する際同様のパターンを示すか調査を行いました。新興発生国を詳しく調査した結果、ヒアリに対する病原体種がアメリカには4種から5種存在するのに対し、新興発生国には1種から2種しか存在しないことがわかりました。興味深いのは天敵開放仮設で述べられている通り、侵攻初期段階においてヒアリにとって有害な病原体が存在しないことです。少なくともヒアリの繁栄に病原体種の影響が少ないことが関連していることを示しています。
 ヒアリ対策として、ヒアリの新興発生国に現在存在しないヒアリに対して有害な病原体の移入、定着を検討することは調査結果に基づく論理的な応用であると思います。
 ヒアリの天敵となる病原体導入による直接効果とベイト剤を並行して用いることによる相乗効果も期待できます。こうした考え方に基づいて、アメリカからヒアリの天敵となりえる病原体、捕食寄生生物が数種台湾に導入され、検疫機関で宿主特異性の評価が行われています。また、検疫機関での評価と並行して大量生産(飼養)方法の確立が進められております。
 ヒアリ天敵を開放することにより大きな効果が期待されます。

  • クリンタウン
  • 虫ナイ

PMPニュース375号(2018年7月)に戻る