HACCPはどのようにペストマネジメントに応用されるべきか

 食品関連法規の整備や監査に基づく高品質の要求、消費者からの期待度の高まりにより食品業界は革新を余儀なくされてきました。HACCP(Hazard Analysis of Critical Control Points)は1950年代から60年代に最初に導入されてから今日までにそうした環境のへんかにともない進歩してきました。HACCPの取り組みによる究極の目的は最高品質の食を消費者に届けることです。

 食品関連業界にサービスを提供している駆除業者であればHACCPを認識しているはずですが、しかしながら理解度がそれぞれで異なるばあいがあります。今号ではHACCPがどのようにペストマネジメントに取り入れることができるか具体的にお話しさせていただきます。

 法整備が進み、PMPにはより高い基準のハードルを満たすことが求められます。定められた基準を順守している時点でHACCPの要素を実践しているといえます。

HACCPの原則に沿って実践されるペストコントロールとは?

 HACCPの基礎は次にあげる7つの原則により構成されています。

  • The ‘Hazard’(危険要素)
  • Critical control point (CCP) – the stages of the process where hazards must be controlled
    危機管理点(CCP) – 工程上の危機要素を管理する工程
  • Critical limits 許容限界
  • Monitoring モニタリング
  • Corrective action 改善措置
  • Verification 検証
  • Documentation 記録

 ペストコントロールが関係する危険要素は主にペスト(害虫獣)そのものです。
それにはネズミ、鳥類、貯穀害虫、飛翔昆虫や外部から侵入してくる昆虫類が含まれます。異物混入、疾病の拡散、ブランド力の失墜などペストは食品に壊滅的被害をもたらす危険性をもっています。

ペストコントロールは危機管理点としてどのように分析されるのか?

 危機管理点はBritish Retail Consortium (BRC:英国小売業協会)の制定するペスト・リスク評価に基づき分析することができます。食品製造の各製造工程における危険要素を分析し、それぞれの工程に対しペストが及ぼす被害を算出します。それぞれの現場で条件等は異なりますが、パン工場の各製造工程をわかりやすい例としてご紹介いたします。例えば、未加工の原材料は貯穀害虫による食害を受ける危険性が非常に高いといえますが、加工工程において高温のオーブンで焼くと虫は死滅してしまします。しかしながら、どの工程においても危険性を最小限に抑え、包括的に商品の品質を護らなければなりません。

 更に先の製造工程が包装工程です。包装工程は最終工程に近く、それは消費者により近い段階であり、全工程中で最も危険度の高い工程です。害虫が最終製品に入り込む危険性や、製品と一緒に包装される危険性が非常に高いので、最高水準の管理が必要とされます。

Critical limits(許容限界)

 ペストコントロールに対しての許容限界値を定めるのは容易ではありません。飛翔昆虫に対する管理であれば、捕虫機を用いて指標を定めることができます。捕虫機で捕獲した飛翔昆虫の種類、数を分析し、それを基に許容限界値、閾値を定めることができます。許容限界値、閾値が侵害された管理活動の開始です。ネズミに対する許容限界値を定める場合、少しでも生息の痕跡があれば防除を計画に基づき実行しましょう。

Monitoring(モニタリング)

 HACCPに準拠したペストマネジメントの中で、最も実践しやすいのがモニタリングです。
現場で実践するモニタリングの手法には、ネズミ対策として既製の無毒餌を入れたベイトステーション、匍匐昆虫対策として粘着モニタリングトラップ、飛翔昆虫対策として紫外線捕虫機、貯穀害虫対策にはフェロモントラップなど様々な手法があり継続的実践が可能です。

Corrective action(改善措)

 モニタリングによる許容限界値を超えた場合は、現場訪問頻度を増やす、警戒度を上げる、トラップによる捕獲、殺鼠剤および殺虫剤や衛生環境改善、侵入防止策を含む是正処置を実行してください。

Verification(検証)

 施工担当者、研究者により作成された報告書がHACCPの一部としてのペストコントロールにおける検証となります。検証条項を確証づけるために、報告書には写真が添付される場合があります。また、通常の検証とは別に依頼を受けたコンサルタントや害虫獣専門家によりペストマネジメントおよび関連事項に関する報告書が作成されることがあります。

Documentation(記録)

 BRC (British Retail Consortium:英国小売業協会)、AIB (American Institute of Baking:米国製パン研究所)が設ける監査基準においてペストマネジメントに関する全ての記録が必須項目です。記録は提供するペストマネジメントを検証する上で必要となる証拠であるとともに、トレーサビリティー上きわめて重要です。以下の項目を含めた全ての害虫獣リスクを書面化し記録しなければなりません。

  • モニタリング実施個所の見取図
  • 施工内容
  • 現場平面図
  • チェックリスト
  • 検査報告書
  • 健康と安全に関するその他すべての記録

HACCPにおけるペストマネジメント立ち位置は?

 これには二通りの考え方があります。HACCPシステムは危機管理点により構成されており、ペストコントロール自体に応用しようとすると大変複雑な問題に直面します。
 例えば、ネズミのモニタリングにベイトステーションを配置するとことにより一つの危機要因が低減されると同時に、別の危機要因が発生します。また、モニタリング箇所に殺鼠剤を配置すると、有毒化学物質による危機要素が生じ、それにたいする管理が必要となります。
 ですから、いたずら防止機能付きのベイトステーションを使用し、頻繁に点検しなければなりません。理論的には危機要素は可能な限り低減されなければなりませんが、1つの危機要素低減の為に別の危機要素が生じてしまう問題があります。唯一の解決策は、検証と記録を実践することです。

まとめ

 食品関連に対してペストマネジメントを提供する際は常にHACCPを念頭に置いて実践することがとても重要です。特に食品製造施設の場合であれば専任のHACCPチームが置かれているはずです。基準要件を満たし、より高品位なペストコントロール提供は専任のHACCPチームと緊密に連携して初めて可能となります。HACCPの原則順守とそれに則したペストマネジメントの実践にはその根拠となる正確で詳細な書面化された記録が必要です。

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