ペストコントロールの基礎知識と知って得する技術ノウハウ・情報 第6回

鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾

出典元:月刊HACCP286号より

ハエ類の防除方法

 先月はハエ類など飛翔昆虫の調査に必須ともいえる捕虫器について解説させて頂きました。
 ハエ類の防除方法は「物理的防除」、「化学的防除」、「環境改善による防除」3種類の防除方法を組み合わせて行います。今号では、物理的防除方法と化学的防除方法について説明させて頂きます。

コバエ類の物理的防除方法

 コバエ類の具体的な物理的防除方法は下記の様な方法があります。
●捕虫器
 「捕虫器」は本来調査(モニタリング)機器ですが、捕虫ランプが発する特定波長の紫外線でハエ類を誘引し、粘着紙で捕獲する事から物理的防除方法とも言えます。

●粘着トラップ
 ハエがよく飛来する場所にベタベタした粘着剤が塗布された紙などを設置し、シートに触れたコバエ類を捕獲する方法です。※注意※捕獲したハエが落下してしまう可能性もありますので、使用する時は必ず、製造ラインから離れた場所で使用してください。ほこりなどが付着すると粘着力が低下してくるので、定期的に交換する必要があります。

①ハエ取り紙(ハエトリリボン)
 天井や鴨居から吊り下げて使用し、シートに粘着性の高い液体が塗布されており、コバエ類がシートに接触すると捕獲する事が出来ます。誘引物質を含んでいないので、ハエを良く見かける場所に設置し、捕獲されるのを待ちます。

②飛翔昆虫用調査トラップ
 ハエを捕獲する仕組みはハエ取り紙と同じですが、現場で使いやすいよう工夫されており、生息数のモニタリングにも使用する事が出来ます。また、捕虫器設置前の事前調査に利用する事もあります。

【飛翔昆虫用調査トラップ 商品名:デミ・ダイヤモンド】
 吊り下げて使用もできますが、置いて使用する事(横)も出来る調査トラップです。誘引剤を入れる窪みがついており、ビールや果物ジュースなどを少量入れる事でショウジョウバエなどを誘引する事が出来ます。捕虫シートが交換式になっており、透明フィルムが同梱されているので、ハエが捕獲されたシートにフィルムを張る事で、同定がしやすくなります。
【飛翔昆虫調査用トラップ 商品名:ムシとりシート】
 粘着面が280×580㎜の大型サイズの捕虫シートです。同梱のワンタッチフックで吊り下げて使用します。

●熱処理
 多くの害虫は幼虫・卵を含め、約50℃の温度に達すると蛋白質が凝固するため、50℃以上の温度環境になると生存できません。代表的な物は「熱湯」です。排水管などに熱湯を流し入れ、殺虫する事もあります。ただし、熱湯はすぐに温度が低下してしまうので、大量の熱湯が必要となります。
【熱処理 商品名:ターモノックス】
 熱処理機と呼ばれる機械もあります。室内空間全体を36~48時間かけて50~55℃に加熱し、室内環境中に隠れた虫を駆除します。極端な粉堆積などがあると、その断熱作用で殺虫効果が低下することがあり、清掃と組み合わせて実施する必要があります。※電源は三相400V~440Vが必要となります。

写真左から:捕虫器、ハエ取り紙、デミ・ダイヤモンド、ムシとりシート、ターモノックス

●泡殺虫
 きめ細かい泡でコバエ類を包み込み、捕殺(窒息死)させる方法です。殺虫成分を用いずに成虫駆除が出来ます。手軽なエアゾールタイプと広範囲への施工に適している電動式があります。泡は長時間その場所に留まるので、コバエ類の発生源となる、配管内、側溝の壁面、グレーチング裏などに施工すると効果的です。また、配管や割れ目・裂け目などに注入すると、立体的に拡散します。

【エアゾール型泡殺虫 商品名:クリアフォーマー】
 エアゾール缶タイプになっており、同梱のロングノズルを用いて、配管内などに泡を手軽に注入し、泡殺虫を行う事が出来ます。成分は界面活性剤と香料のみです。

【電動式泡殺虫機 商品名:バーサフォーマー&専用起泡剤】
 工場内部の配管内、側溝の壁面、グレーチング裏などを泡殺虫する場合、相当な施工箇所になります。ランニングコストを抑える為に大容量タイプの発泡機も販売されています。
 タンクに水を入れ、専用起泡剤(界面活性剤)を3~5%添加し噴霧する事で泡殺虫が行えます。※通常の蓄圧式噴霧器に起泡剤を添加しても発泡しません。


写真左から:クリアフォーマー、バーサフォーマー、専用起泡剤、
側溝に泡を噴霧した様子、泡に捕殺されたオオチョウバエ

ハエ類の化学的防除

 殺虫剤というと危険なイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、近年は人体への安全性が高い殺虫剤や特定の虫にしか効果を発揮しない殺虫剤なども開発されてきています。また、殺虫剤の効果・混入リスクは有効成分の残留性や、散布方法によっても異なります。重要なのは、化学的防除のメリット・デメリットを正しく理解し、合理的に考える事です。多数ある殺虫剤の特徴を正しく理解する事が、リスクを抑えつつ防除効果を高める事に繋がります。

殺虫剤の種類について

 ハエ駆除に用いる殺虫剤は主に有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、昆虫成長制御剤(IGR剤)の3系統が使用されています。種類や成分毎に特長が異なる為、殺虫剤を使用する時は有効成分を確認し、どのような特長があるか事前に把握するようにしましょう。もし害虫駆除(ペストコントロール)業者に作業を依頼している場合は、何故この有効成分の殺虫剤を用いるのか、意図を確認する事も重要です。

●有機リン系殺虫剤
 ピレスロイド系殺虫剤と比べると残効期間が長く、殺虫力が強く、魚毒性は低いものが多いです。

●ピレスロイド系(様)殺虫剤
 速効性に優れますが、残効期間は有機リン系殺虫剤と比較して短い傾向にあります。薬剤に触れた昆虫は微量でノックダウンする効果があります。空間噴霧、忌避、追い出し(フラッシング)など様々な用途で使用されます。人畜に対する毒性は有機リン系殺虫剤と比較して相対的に低いのですが、魚毒性が高いため使用場所に注意する必要があります。

●昆虫成長制御剤(IGR剤)
 昆虫の変態や脱皮をコントロールしているホルモンのバランスを狂わせて、昆虫の脱皮や羽化を妨げ、死に至らせる殺虫剤です。そのため、昆虫の特定の時期だけに作用します。哺乳類に対する毒性がほとんどなく、安全性の高い薬剤です。

殺虫剤の施工方法について

 殺虫剤を噴霧する施工方法によっても、効果や混入のリスクが大きく異なってきます。
 ハエ類など飛翔昆虫の防除では、基本的に成虫対策と幼虫対策(発生源対策)の両方を行う事が長期的にも発生を低く抑える事が出来る為、オススメしています。

成虫対策に用いる施工方法

 基本的に成虫の飛来する場所に殺虫剤を散布する施工になります。エアゾールを用いた施工、殺虫剤を霧状、煙状などの微細粒子で散布し、空間内に充満させる空間噴霧施工、蒸散剤を用いた施工の3種類が多く用いられます。

●エアゾール
 有効成分を有機溶剤で溶かした原液(水性タイプもあり)と噴射剤(LPG、DMEなど)が充填され、有効成分を噴射します。飛翔昆虫に対して直接吹き付ける事で駆除します。
※注意※噴射剤は引火性がありますので、火気に注意して使用して下さい。

●空間噴霧:燻煙剤
 発熱剤、助燃剤を含んだ製剤であって、加熱により有効成分を煙状に空中に浮遊させます。
 密閉された空間内に煙状の殺虫剤を空中に浮遊させ、飛翔昆虫に接触させ駆除します。
 火始動タイプと水始動タイプの2種類があります。

●空間噴霧:ULV
 ULVは、Ultra Low Volumeの略で、殺虫剤を高濃度少量散布する方法です。空間内に殺虫剤を散布する際、5~20ミクロンの粒子径で噴霧すると長時間空気中に浮遊する為、ハエ等飛翔昆虫に接触しやすく、高い効果を得る事が出来ます。(粒子が大きいと早く地面に落下してしまいます)ULV処理に用いる薬剤は、高濃度であればどんな成分や剤型でもよいのかといえばそうではありません。人体に対する安全性からピレスロイド系のような温血動物に安全性の高い薬剤に限られます。「ULV乳剤」は、有効成分がフェノトリンとペルメトリンの2種類があります。ULVに用いる機械は5~20ミクロンの最適粒子径を90%以上噴霧できる、ULV専用噴霧機を使用します。

●空間噴霧:炭酸ガス製剤
 有効成分と液化炭酸ガスのみで構成された薬剤です。有機溶剤や界面活性剤、水等の補助溶剤を含みません。噴射剤として液化炭酸ガスを使用している為、動力が不要です。炭酸ガスの気化圧力により、有効成分が超微粒子化(0.3~3ミクロン)する為、拡散性に優れ隅々まで効果が表れます。隙間、壁内、天井裏などにも薬剤が行き届きます。また、水など希釈剤等を一切使用していない為、対象施設の汚れが少なく、清潔空間を維持したまま衛生管理を行うことが可能です。

【空間噴霧:炭酸ガス製剤 商品名:ミラクンPY】
 天然成分「ジョチュウギクエキス」と炭酸ガスを混合しています。ジョチュウギクエキス(ピレトリン)は速効性があり、残留が極めて低い有効成分です。有機JAS資材認定を受けているので、有機JAS工場で薬剤を使用する際の事前申請が不要になります。※ジョチュウギクエキスは、有機加工食品の有機JAS規格で、使用が認められています。
 また、有機JASの認定はミラクンPYに限られますが、有効成分が異なるミラクンS、ミラクンGXなども工場などでよく使用されています。

商品名 ミラクンS ミラクンPY ミラクンGX
医薬品分類 第2類医薬品 第2類医薬品 第2類医薬品
有効成分 フェノトリン1.0% 天然ピレトリン1.0% d・d-T-シフェノトリン0.6%
用法用量(ハエ・カ) 1g/㎥ 30分 1g/㎥ 30分 0.5~1g/㎥ 30分

【薬剤到達の検証方法:ミラクンシリーズ バリデーション】
 ミラクンシリーズのメーカー「日本液炭株式会社」では、バリデーションプログラムという検証方法を提案しています。ケミカルピース(ろ紙)とシャーレを用いて、薬剤の付着量分析、アルコール含侵ガーゼの設置面拭き取りによる薬剤付着量分析を行う事で、薬剤がどこまで到達したか、薬剤濃度は適正かの検証ができます。空間噴霧による混入リスク(予知せず、対象エリア外に薬剤が流出してしまう等)を予め知る事が出来るので、オススメです。


写真左から:エアゾール、燻煙剤、ULV施工の様子、炭酸ガス施工の様子

幼虫対策に用いる施工方法

 基本的に発生源である排管内、壁内、側溝、グレーチング裏などに殺虫剤を散布します。
 使用する殺虫剤は昆虫成長制御剤(IGR剤)、有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、ネオニコチノイド系殺虫剤などを用います。昆虫成長制御剤は脱皮、羽化時に死に至らせる為、致死まで少し時間がかかりますが、哺乳類に対する毒性が殆ど無いので、食品工場などでの幼虫対策の主流となっています。有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、ネオニコチノイド系殺虫剤などは、速効性があるので、大発生してしまった緊急時に使用する事もあります。
【昆虫成長制御剤(IGR剤)商品名:スミラブシリーズ】
 使用現場に合わせて剤型を選択する事が出来るので、防除効果を高める事が出来ます。
 発泡錠剤は雨水桝などの止水域で使用すると、発泡の力で有効成分が拡散します。
 粒剤、固形剤は有効成分が徐々に溶け出すので流水域での長期残効性が期待出来ます。
 S粒剤は水に溶けやすいので、希釈し、液剤として噴霧に適しています。また、後述の泡殺虫機にIGR剤を添加する時にも使われています。

【泡殺虫機を用いて物理的防除+化学的防除で幼虫・成虫を同時に駆除】
 前述の泡殺虫にIGR剤(昆虫成長制御剤)を添加し、成虫対策は泡殺虫、幼虫対策はIGR剤を用いて幼虫・成虫を同時に対策する事ができます。幼虫と成虫の駆除が同時に出来るので長期間発生を抑える事が出来ます。

ハエ類駆除に用いる代表的な殺虫剤の有効成分と特長一覧

 ハエ類駆除に用いる代表的な殺虫剤の有効成分、系統、一般名、商品名、特徴を下記に記載させて頂きます。

系統 一般名 商品名 特長
有機リン系 フェニトロチオン スミチオン 人畜に対する毒性が低い。
各種衛生害虫に対して有効で適用範囲が広い。
比較的遅効性だが致死効力は大。
残効性が比較的大きい。
プロペタンホス サフロチン 非対称型の有機リン剤である。
広範囲の害虫の成虫・幼虫に対して高い致死効果を有する。
遅効性ではあるがアルカリ性の条件でも比較的安定である。
残効性にも優れている。
特に有機リン剤抵抗性のイエバエに対して有効である。
ジクロルボス DDVP 極めて速効性にすぐれている。
揮散性が大きい。
残効性は殆ど期待できない。
ピレスロイド系 ペルメトリン エクスミン 残効性が非常にすぐれている。
生体内での分解、排泄が極めて速い。
フェノトリン スミスリン 蚊、イエバエ、ゴキブリに対して他のピレスロイド系薬剤と比較して速効性は劣るがノックダウンした虫の蘇生率が低いために高い致死率が得られる。
残効性もすぐれている。
フタルスリン ネオピナミン ピレスロイドの中で特に速効性が大きい。
致死効果、残効性は低い。
蚊、ハエ防除用エアゾールのノックダウン剤として使用される。
ジョチュウギクエキス(ピレトリン) 除虫菊エキス 唯一の天然物由来の殺虫剤で、速効性は大きい。
共力剤によってさらに増強される。
残効性は極めて小さい。
低毒性のため、蚊取線香やエアゾールなどの家庭用殺虫剤に多用されている。
ピレスロイド様 エトフェンプロックス レナトップ
(ベルミトール)
広範囲の害虫に優れた殺虫効果がある。
特にピレスロイド抵抗性イエバエに対して有効である。
また水域での蚊の幼虫(ボウフラ)にも使用できる。
昆虫成長阻害剤 ジフルベンズロン デミリン 昆虫の幼虫全令期に有効で、脱皮阻害効果により致死させる。
有機リン剤抵抗性害虫にも有効である。
人畜、鳥、魚に対して安全性が高い。
ピリプロキシフェン スミラブ 蛹から成虫への羽化阻害効果を発揮します。
昆虫のみ作用する選択毒性を示す。
哺乳動物に対し安全性が高い。
環境の中での安全性に優れる。
メトプレン アルトシッド 効力は直接的なものではなく、昆虫の変態に作用して間接的に致死させる。
ハエ類、蚊類とも発育が進むにつれて感受性が高くなる。

※日本防疫殺虫剤協会「薬剤の知識」より抜粋して作表 http://hiiaj.org/insecticide/knowledge.html

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