鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾
出典元:月刊HACCP288号より
今号のテーマはタバコシバンムシなど食品(貯穀)害虫
食品貯蔵庫や食品工場では、食品害虫(貯穀害虫)とよばれる害虫類(タバコシバンムシ、ノシメマダラメイガなど)が、いつの間にか侵入、繁殖してしまい、包装された食品に混入するなど異物混入の原因となる事があります。これら食品(貯穀)害虫の対策は意外と難しく、品質管理担当者の頭を悩ませる事も多いです。今号では、食品(貯穀)害虫の中でも特に問い合わせが多い4種(タバコシバンムシ、ジンサンシバンムシ、ノシメマダラメイガ、ヒメマルカツオブシムシ)の生態、生息調査の方法、フェロモントラップの仕組み、使用方法などについて説明させて頂きますので、参考にしていただければ幸いです。
食品(貯穀)害虫はどこからやってくる?
貯穀害虫の主な侵入箇所は以下の3点です。
1. 出入口からの侵入
2. 原材料に混入
3. 工事等による外部からの侵入
意外に多いのが「ヒト」や原材料など「物」に卵が付着しての侵入です。タバコシバンムシやノシメマダラメイガの卵は0.5㎜程度で乳白色の為、侵入予防を実施するのが非常に困難です。
タバコシバンムシの繁殖力
食品害虫の代表種ともいえるタバコシバンムシは繁殖力が非常に強く、快適な環境と充分な餌があった環境下で繁殖した場合、1年後には14億5,800万匹にも繁殖してしまう可能性があります。※産卵数60個/雌 成育日数60日 性比1:1
■短い成育期間での繁殖例
大匙一杯分の餌(約8g)の餌があれば、
1~2週間で幼虫が70匹程度に繁殖する事が出来ます。
食品(貯穀)害虫の食性
タバコシバンムシなど食品(貯穀)害虫は、含水量15%未満の乾燥食品(米、うどん、そば、パスタ、ナッツ、七味唐辛子、小麦粉)を好む傾向があります。また、タバコシバンムシ、ノシメマダラメイガの成虫は餌を食べません。「幼虫のみ」が上記乾燥食品を食害します。
写真左:タバコシバンムシ幼虫がパスタを食害 写真右:小麦粉に群がるタバコシバンムシ
タバコシバンムシやノシメマダラメイガには強い穿孔力がある
タバコシバンムシやノシメマダラメイガなどの幼虫には強靭なアゴがあり、薄いフィルムなどに穴をあけ、包装された食品にも混入してくる事があります。素材によって穿孔できる厚みは異なりますので、包装資材の厚みを穿孔できない厚さにする。資材の素材を変更するといった事も食品(貯穀)害虫の混入予防対策となります。
写真:タバコシバンムシの穿孔
●ノシメマダラメイガ幼虫の各素材への穿孔力 (1 (2
種類 | 厚さ | 種類 | 厚さ | |
クラフト紙 | 114μm | 塩化ビニル(PVC) | 30μm | |
高密度ポリエチレン(HDPE) | 80μm | 二軸延伸ポリプロピレン(BOPP) | 30μm | |
ポリ塩化ビニルデン(PVDC) | 40μm | アルミ箔 | 16.5μm |
食品(貯穀)害虫の生態
●タバコシバンムシ (英名:Tabacco beetle / Cigarette beetle)
写真 | |
体長 | 成虫:約2.5mm、幼虫:約4mm |
特徴 | 卵形で一様に赤褐色~茶褐色、黄色の短い毛が密生、翅鞘は明瞭な条線や点刻がない、触角は各節が同じ鋸歯状。幼虫で越冬する。 |
食性 | 穀類の粉、香辛料、ペットフード、菓子類、漢方薬、鰹節類、藁 タバコなど |
発生時期/発生回数 | 4月~11月 発生ピークは9月10月 / 年3~5回発生する |
成虫寿命/産卵数(回) | 約10日 / 50~100個(1回) |
●ジンサンシバンムシ(英名:Drugstore beetle,Biscuit beetle)
写真 | |
体長 | 成虫:約2.5mm、幼虫:約3.5mm |
特徴 | 体色は褐色〜暗赤褐色、タバコシバンムシと見た目が類似(ジンサンシバンムシはタバコシバンムシと異なり、触角の末端3節が長く、翅鞘には点刻が並んで線状に見える)幼虫で越冬する。 |
食性 | 様々な穀類、ペットフード、粉スープ、パン、ビスケット、漢方薬、香辛料など |
発生時期/発生回数 | 1~10月 / 気温で変化(東北地方:年1回 鹿児島:年3回) |
成虫寿命/産卵数(回) | 約21日 / 約80個 |
●ノシメマダラメイガ(英名:Indian meal moth)
写真 | |
体長 | 成虫:約7mm、前翅長は5~8mm、成熟幼虫:約10~12mm |
特徴 | 前翅の基部側半分は淡黄色、残りの部分は赤褐色、黒褐色の線が見られる。幼虫で越冬する。 |
食性 | 米、 小麦などの穀類 とその加工食品 、大豆 など豆類 、ゴマ などの油用種子 、ナッツ類 、乾燥果実 、ココアやチョコレート など |
発生時期/発生回数 | 4月~11月初旬 / 年3~4回発生する |
成虫寿命/産卵数(回) | 約10日 / 約100~400個 |
●ヒメマルカツオブシムシ(英名:Varied carpet beetle)
写真 | |
体長 | 成虫:約2.5mm 幼虫:約4mm |
特徴 | 体色は地肌が黒色でその上に白、黄、褐色の鱗片状の毛が様々な割合で生えている。衣類害虫として知られるが食品工場で問題になる事も多い。 |
食性 | 衣類、絨毯(特に羊毛、絹製品)、毛皮、羽毛、ブラシ、毛筆、鰹節、乾魚、生糸、蚕繭、小動物標本(特に昆虫、剥製)、玄米や小麦などの穀物類 ※成虫は植物質(花粉や花の蜜)を好む |
発生時期/発生回数 | 3月~8月 発生ピークは5~7月 / 年1回発生する |
成虫寿命/産卵数(回) | 約30~40日 / 約30~70個 |
食品(貯穀)害虫の対策はPDCAサイクル
食品(貯穀)害虫は約0.5mmの卵などの状態で侵入してくる為、侵入リスクをゼロにする事が困難です。また、繁殖力も強い為、いつの間にか大量発生してしまう事もあります。
① Plan(計画)
管理計画の作成
② Do(実行)
モニタリングトラップの設置、防除処理(餌となる粉塵の清掃、殺虫処理など)
③ Check(評価)
調査結果の分析と評価
④ Action(改善)
評価に基づく対策の実施
食品(貯穀)害虫の生息調査
上記PDCAサイクルを実行する為には、モニタリングトラップを用いた生息調査が欠かせません。どのようなトラップを用いるのが適切なのか考えてみましょう。
●調査トラップ 紙製の台紙に捕獲用の粘着剤が塗布されている。対象害虫がよく徘徊する場所に設置し、偶然捕獲されるのを待つ。ゴキブリやハエなど様々な虫が捕獲される為、種の同定が必要
●捕虫器 紫外線ランプと熱によって虫を誘引し、粘着剤が塗布されている台紙に虫を捕獲する。捕獲されるのは主に飛翔昆虫だが、食品(貯穀)害虫が捕獲される事もある。様々な虫が捕獲される為、種の同定が必要。
●フェロモントラップ フェロモンを利用して特定の害虫を誘引し、捕獲する。
フェロモンに対応した特定の害虫のみが捕獲される。
モニタリングトラップは主に上記3種ですが、食品(貯穀)害虫の多くは誘引源となるフェロモンが解明され商品化されている事が多いので、食品(貯穀)害虫の定期調査にフェロモントラップを用いることがスタンダードと言っても過言ではありません。
フェロモントラップとは・・・
フェロモントラップとは害虫を呼び寄せる誘引剤にフェロモンを利用し、特定の害虫だけを捕獲する事が出来るトラップの総称です。昆虫が発するフェロモンは、集合フェロモン、性フェロモン、道しるべフェロモン、警報フェロモン、女王フェロモンなど種によって様々な種類がありますが、食品(貯穀)害虫向けのフェロモントラップでは主に「性フェロモン」を利用しています。(一部集合フェロモンを利用した商品有り)
●性フェロモンとは・・・
特定の昆虫は交尾の為に自分の居場所を知らせる匂いを発しており、それを性フェロモンと云います。その性フェロモンを解析し、人工的に合成もしくは、同じ生理活性を示す化合物を誘引剤に用いて、特定の害虫を捕獲します。性フェロモンを用いたトラップでは「オス」しか捕獲する事は出来ませんが、誘引力は集合フェロモンと比較すると高いと言えます。
性フェロモンを使用した方が5倍以上捕獲出来る
食品(貯穀)害虫の捕虫試験にて「性フェロモン」を使用した場合、下記試験結果によると、性フェロモンを使用した方が5倍以上捕獲出来る事がわかります。(富士フレーバー株式会社 社内試験)
フェロモントラップの活用
フェロモントラップによる生息調査を実施する事で以下のような事が分かってきます。
●設置場所ごとの生息数の確認が出来る
捕虫されたトラップ周辺を探索する事で発生原因を効率的に調査する事が出来ます。
●対策の効果が目に見えてわかる。
対策(清掃など)の効果を数字(捕獲数)で確認する事が出来ます。
フェロモントラップの使用方法
① トラップの配置
工場内の各エリアの図面を用意し、10m間隔でグリット線を記入する。有効範囲が重ならないようにグリット線交点にトラップ配置図を作成する。
設置の高さは確認しやすい目線の高さ(約5m)がオススメです。
② トラップの除去
製造ラインや出入口付近のトラップを除去
※一度設置場所を決めたら、捕獲の有無に関わらず、設置・交換を継続して下さい。
③ トラップの確認
一定周期で捕虫数をカウント・記録
(1週間に1回を推奨)
設置時の注意点
フェロモントラップは特定の害虫を誘引出来る特性から、誤った場所に置くと、混入リスクを高めてしまう事にもなりかねません。設置する時は以下の点にご注意下さい。
●出入り口・製造ライン上には設置しない
●排気ダクト付近への設置は注意する
●トラップは壁に密着させ設置する
(浮いた状態や隙間があると捕虫効率が低下する)
●ノシメマダラメイガ用フェロモントラップは捕虫器から4m離す
(ノシメマダラメイガは光を嫌う為)
フェロモントラップで捕獲できる食品(貯穀)害虫
富士フレーバー株式会社では食品(貯穀)害虫14種に対応したフェロモントラップを販売しています。
対象害虫 | 対応商品名 | 商品写真 |
タバコシバンムシ ノシメマダラメイガ チャマダラメイガ |
セリコダブルプラス
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ノシメマダラメイガ チャマダラメイガ ガイマツヅリガ |
ガチョン ※誘引剤は種毎に 異なります |
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タバコシバンムシ | ニューセリコ
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ジンサンシバンムシ ヒメマルカツオブシムシ |
ハイレシス ※誘引剤は種毎に 異なります |
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コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキ、コナナガシンクイ、ノコギリヒラタムシ、コクゾウ、ヒメアカカツオブシムシ、カクムネチビヒラタムシ | トリオス ※誘引剤は種毎に 異なります ※当商品は集合フェロモンを使用 |
食品(貯穀)防除方法
食品(貯穀)害虫は基本的に餌となる乾燥食品に誘引されます。その為、防除方法は食品(貯穀)害虫が発生してしまった食品の廃棄、発生場所の清掃が基本となります。殺虫剤を使用しても問題ない場所であれば、エアゾールや燻煙剤などを使用し殺虫する事ができます。
●食品(貯穀)害虫駆除用殺虫剤
商品名 | キルノック®G | 商品写真 |
メーカー名 | 住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社 | |
有効成分 | シフェノトリン、イミプロトリン(ピレスロイド系) | |
剤型/容量 | エアゾール / 420mL | |
対象害虫 | ワラジムシ、ダンゴムシ、ヤスデ、ムカデ、不快害虫 | |
使用方法 | フラッシング:害虫の生息する隙間に1〜2秒噴霧する。 直接噴霧:1〜2秒/㎡ 、残留噴霧:約20秒/㎡ |
商品名 | バルサン® PCジェットA | 商品写真 |
メーカー名 | レック株式会社 | |
有効成分 | ペルメトリン | |
剤型/容量 | くん煙剤 / 80g、160g、320g | |
対象害虫 | シバンムシ、メイガ、チャタテムシ、コクゾウ、 コクヌストモドキ、カツオブシムシ |
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使用量目安 | 80g:100~133立米に1個 (高さ3mとして約33平米~44平米) 160g:200~267立米に1個 (高さ3mとして約67平米~89平米) 320g:400~533立米に1個 (高さ3mとして約133平米~178平米) |
商品名 | バルサン®MCジェットW | 商品写真 |
メーカー名 | レック株式会社 | |
有効成分 | メトキサジアゾン、d・d-T-シフェノトリン | |
剤型/容量 | くん煙剤 / 100g | |
対象害虫 | シバンムシ、メイガ、チャタテムシ、コクゾウ、 コクヌストモドキ |
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使用量目安 | 100g:300~405立米に1個 (高さ2.5mとして120平米~162平米) |
業態・扱う食品別 発生が多い食品(貯穀)害虫種と対応トラップ一覧
業態 | 扱う食品 | 対象害虫 | 対応トラップ |
粉体工場 | 植物性粉末 | タバコシバンムシ ノシメマダラメイガ |
セリコダブルプラス ニューセリコガチョン |
動物性粉末 | タバコシバンムシ ジンサンシバンムシ ヒメマルカツオブシムシ |
ニューセリコ ハイレシス セリコダブルプラス |
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乾物工場 | 乾燥果実 | タバコシバンムシ ノシメマダラメイガ |
ニューセリコ ガチョン |
乾燥海産物 | ジンサンシバンムシ | ハイレシス | |
ナッツ類 | タバコシバンムシ ノシメマダラメイガ コクヌストモドキ類 ノコギリヒラタムシ |
ニューセリコ ガチョン ハイレシス |
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精米工場 お米を扱う加工工場 |
玄米・白米・糠 | タバコシバンムシ ノシメマダラメイガ ガイマイツヅリガ コクゾウ コクヌストモドキ ヒメマルカツオブシムシ コナナガシンクイ |
ニューセリコ ガチョン ハイレシス トリオス |
博物館 | 動物標本等 | ジンサンシバンムシ | ハイレシス |
文化財家屋 | 衣類等 | ノシメマダラメイガ ヒメマルカツオブシムシ |
ガチョン ハイレシス |
謝辞
本記事を執筆するにあたり写真・資料を提供して頂いた富士フレーバー株式会社様に厚く御礼申し上げます。
参考・引用文献
1)佐藤仁彦(2003)「生活害虫の事典(普及版)」朝倉書店.
2)高橋朋也(2019)「最新の異物混入防止・有害生物対策技術」株式会社テクノシステム.